唐の時代。
江西・饒州の刺史(知事)の崔彦章が城東の楼閣でお客の送別会を開いていたところ、
忽有一小車、其色如金、高尺余、巡席而行。
たちまち一小車の、その色金の如く、高さ尺余なる有りて、席を巡りて行く。
突然、金色に塗られ、一尺あまりの大きさの小さな車が現われ、宴席の中をめぐりはじめた。
みなが呆気にとられて見ている前で、それは誰かが押したり牽いたりしているわけでもなく、ひとりでに動いているのだ。
そして、
若有求覓。
求覓することあるがごとし。
誰かを探しているかのようであった。
やがて車は主人の彦章の席の前まで来ると、
遂止不行。
遂に止まりて行かず。
とうとう止まって、動かなくなった。
と見るや―――
彦章即絶倒。
彦章、即ち絶倒す。
彦章がその場に倒れたのだ。
みな大騒ぎして手当したが、その間に車の方はどこに行ったものか見えなくなってしまった。
彦章は輿に乗せて運ばれたが、城内の官舎に戻ったときにはすでにこときれていた。
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五代〜宋・徐鉉「稽神録」巻四より。さあ、わしの前にこそこの小車が止まるのではないか、と予想される明日の宴席。いつもにもまして不安。