暑いです。からだ衰えて来た。精神も。
・・・・・・・・・・・・・・・・
宋の葉隆によると、
契丹之先一主乃呵特、一髑髏在穹盧中、覆之以氊、人不得見。
契丹の先の一主・乃呵特のとき、一髑髏の穹盧中に在りて、これを覆うに氊を以てし、人見るを得ず。
遼の国を建てたキッタン族の先祖の酋長にナイカドという人がおって、彼はパオ(移動式テント)の一つにドクロを隠していた。毛皮の敷物で覆って、誰にも見つからないようにしていたのである。
そうだ。
国有大事、則殺白灰牛以祭。
国に大事有れば、すなわち白灰牛を殺して以て祭る。
氏族にとっての大事件が出来すると、ナイカドは白みがかった灰色のウシを一頭屠り、これを犠牲としてそのドクロに祀りを捧げるのである。
すると、
始変人形、出視事。事已即入穹盧、後復髑髏。
始めて人形に変じ、出でて事を視る。事已めば即ち穹盧に入りて、後髑髏に復す。
ドクロはニンゲンの形になる。そしてパオを出てきて、事態を聞き、判断を下す。事態が終息するとパオに入って行き、いつの間にかドクロに戻っているのであった。
いわゆる「現人神」となるのです。
このようであったが、後にナイカドが祈っても出て来なくなったため、ナイトガは酋長の座を逐われた。
因国人竊視之、遂失所在。
国人のこれを竊視するにより、遂に所在を失えり。
氏族の誰かが、そのドクロを盗み見したため、ドクロは何処かに消えてしまったのだ。
とひとびとは信じていたという。
ナイカドより以前の酋長には、自ら
戴野猪頭披猪皮、居穹盧、有事則出、退復隠入穹盧中如故。
野猪頭を戴き、猪皮を披(き)、穹盧に居りて事有ればすなわち出で、退きてまた穹盧中に隠入して故の如し。
野生イノシシの頭をかぶり、イノシシの皮を服にして、ふだんはいつもパオの中にいる。事件が起こるとパオから出てきて指図をし、事が終わればパオの中に戻ってまた出て来なくなる。
というひともいたのである。
この人は、
後、因妻竊其皮莫知所終。
後、妻のその皮を竊(ぬす)むによりて、終わるところを知るなし。
後に、妻がそのイノシシ皮の服を隠してしまったところ、自ら身を隠してしまい、どこに行ったかわからなくなってしまった。
のであった。
キッタン族には、二十頭のヒツジを所有していて、毎日十九頭を食べる。次の日になるとまた二十頭に戻っている、という不思議なヒツジを持っていた酋長もいたそうであり、不思議な人たちである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
明・徐応秋「玉芝堂談薈」巻十より。
王さまというものがもともとどういう職能であったのか、考えさせられるエピソードですね。
「金枝篇」の「殺される王」という存在を思い出すまでもなく、指導者(「王」)でさえ、衰えてくれば身を隠したり殺されたりせねばならないものなのでございましょう。わしのような老兵、衰えれば消え去るのみ。さらば。