じゃいあんが釜のふたを開けた。釜の中ではお湯がぐらぐらと沸き立っている。じゃいあんはおいらに向かって、そこに入れ、とアゴをしゃくったのだった・・・。
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晋の時代のことでございます。お坊さんがおりましたのじゃ。
このお坊さんが亡くなった。すると、
所乗驢上山、失之。
乗ずるところの驢、山に上り、これを失う。
お坊さんが乗っていたロバが山の中に入って行き、行方知れずになってしまったのですじゃ。
それから何年かの月日が過ぎました。
時有人見者、乃金驢矣。
時に人の見る有るものは、すなわち金驢なり。
この山に入る者が、ときおり黄金色のロバを見ることがあった。
また、
樵者往往聴其鳴響。
樵者往々にしてその鳴響を聴く。
木こりたちは、(目にしないまでも)よくその鳴き声を聴いたものである。
山中の地方でございますから、六朝時代の政変の影響もあんまりない。
土地のひとびとの歌いて曰く、
金驢一鳴、天下太平。
金驢一鳴して天下太平なり。
―――黄金のロバが嘶(いな)なけば、この世はまことに平和なり。
と。
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唐・段成式「酉陽雑俎」より(「太平廣記」巻436所収)。
明日、釜の中に入ります。釜の底から宝物を採って来ないといけない。採ってきたらじゃいあんのもの。採ってこれなかったらまた怒られるぞー!
じゃいあんは問題ですが、天下自体は太平だから、まあいいか。去年までは国が亡ぶかどうか、という状態でしたからね。天下太平、五穀豊穣、豊年満作。間もなく安心して旅に出ようと思います。じゃいあんのいない国へ。