平成25年3月31日(日)  目次へ  前回に戻る

 

明日は来年度というのに月曜日かー。

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明日は月曜日なのでしかたない。観光しているのがバレると休日出勤中の岡本全勝さんに叱られるカモ知れないし・・・。

というわけで、今日はステキな珊瑚の島からプロペラ機で帰ってまいりました。

窓際の席だったのではじめは島影を見て楽しんでいたが、やがて雲に入り、それを通り抜ければ一面の雲海の上である。退屈なのでうとうとと眠りかけておりましたら、飛行機の窓を叩く者がある。

「だれじゃ、キモチよく眠っておるところなのに・・・」

と強いて目を開くと、白雲に載った葛稚川(葛洪、晋のころの人なり。道教を研究し、仙人になったとかなんとか・・・)が飛行機と並行して飛びながら、窓を払子で叩いていたのであった。

「おお、稚川道兄か」

と声をかけると、葛稚川、

「がっはっはっは、今日は珍しいところで会ったのう」

と笑い、

「ついでなので言っておくぞ」

とて曰く、

董仲舒学見深而天才鈍。

董仲舒は学見深くして天才鈍なり。

前漢の大学者・董仲舒は学問・見識は大したものであったが、インスピレーションはあんまり働かなかったんじゃ。

「は?」

「わしほどの能力は無かった、ということだ。なにしろ・・・」

稚川続けていう、

以蜥蜴是神龍者。非但不識神龍、亦不識蜥蜴。

蜥蜴を以てこれ神龍なりとす。ただに神龍を識らざるのみならず、また蜥蜴をも識らざるなり。

トカゲのでかいのが神聖な龍である、と言いおったのじゃ。神聖な龍について何も知らなかったのだし、トカゲのことも何も知らなかったのじゃ。

「トカゲは何だったとおっしゃりたいのか」

「トカゲは・・・・原始の・・・・翼龍とはちがう種の・・・・」

プロペラ機とはいえ時速700キロぐらいで飛んでいるのである。さすがの葛稚川の雲も少し遅れてしまい、それ以上は聞こえない。

しばらくして葛稚川はまた窓際まで戻って来て、曰く、

秦時不覚無鼻之醜、陽翟憎無癭之人。

秦の時、鼻無きの醜を覚えず、陽翟は癭無きの人を憎む。

秦の時代は刑罰が厳しかったので、国中に鼻削ぎの刑を受けた者がごろごろしていた。ために鼻が無くても普通だと思われたという。また、村中のひとにコブのある地に育った陽翟というひとは、町に出てきてコブの無い女性を見かけると眉をひそめて嫌がった、という。

「今度は何がいいたいのじゃ?」

「美醜は・・・・相対的なこと・・・・幸と不幸も・・・・善悪も・・・・」

葛稚川の雲は尾翼の方に消えて行き、コトバの続きは風にかき消された。

・・・・しばらくするとまた窓の外に姿を現し、曰く、

風鳴葉者、賊在十里。鳴條者百里、揺枝者四百里。

風の葉を鳴らすは、賊十里に在り。條を鳴らすは百里、枝を揺るがすは四百里なり。

風が木の葉を鳴らすときは、十里(6キロ)かなたに敵が迫っているときじゃ。小枝を鳴らすときは百里かなた、大枝が揺れるほどのときは四百里のかなたなり。

「は? なにをおっしゃっておられるのじゃ?」

「戦争の・・・・が・・・・まで・・・・せまって・・・・」

「道兄、いったいそれは―――!」

―――と、そこで目がさめた。

機内放送があり、飛行機は那覇空港に向けて機首を下げはじめたのであった。

明日あたり、もしかしたら戦争がはじまる?

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すべて晋・葛洪「抱朴子」より。

 

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