平成25年3月27日(水)  目次へ  前回に戻る

 

「図々しい」というのは、何で「図」なんだろう? 「企図」とか「図りごと」の意の「図」を二つ続けて形容詞化した、とも、「図に乗る」の意の「図」を重ねた、ともいいますが、いずれにしろ日本で発明した使い方です。

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河南・頴川の町には、唐の名宰相・姚公のお墓があり、そのお墓には立派な「神道碑」(お墓への入り口に立てる故人の功績を彫り刻んだ石碑)があった。

この「神道碑」は

穹窿高厚四面均焉。

穹窿高厚にして、四面均し。

てっぺんには丸みがあり、高く分厚く、四方向にほぼ同じ大きさの碑面ある立派なものであった。

明の初めごろ、地元出身で中央の侍郎(省の次官)にまでなった人が、

欲割其三分之一、以鐫墓表、告之州守。

その三分の一を割(さ)きて、以て墓表を鐫(ほ)らんとし、これを州守に告ぐ。

その神道碑の三分の一を割って、自分の家の墓石にしたいと、州の知事に申し出た。

遺族と調整を図ってほしい、ということである。

図々しいことでございますが、州の知事は侍郎よりずっと位階が低い。下っ端の後輩、ということになりますのでムゲにはできぬ。

州知事は早速、侍郎の家に出向き、申し上げた、

「侍郎さま、三分の一を割り取りたい、とのお申し出でございますが、

胡弗割三分之二。

なんぞ三分の二を割かざる。

どうして三分の二にされないのですかな?」

侍郎はまんざらでもなさそうに

何也。

何ぞや。

「どうしてそんなことを言うのかのう」

と問うた。

「あなたさまの方が地元への功績は大きうございます・・・」

とかそういうヨイショが期待されたのであるが、知事曰く、

吾欲使後人割侍郎碑者、猶得中分耳。

吾、後人の侍郎碑を割く者をして、なお中分を得せしめんことを欲するのみ。

「わたくしめは、将来、誰かがまた侍郎さまの碑を割り取って自分の家の墓石にしたいと言い出す者が現れたさいに、ちょうど真ん中で割れば、三分の一づつになって公平だろう、と考えましただけでございます」

と。

侍郎、それを聞いて、

遂慚而止。

ついに慚(は)じて止む。

やっと、自分のやっていることがまわりから見ると如何に非礼なことであるかに気づき、碑を割り取る計画を止めることにした。

のであった。

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チュウゴクにも気づく人がいるんですねー。清・金埴「不下帯編」巻四より。

 

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