今日は沖縄本島南部で巨石を観に行ってました(ただし失敗)ので、「石」のお話でもしましょうねえ。
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帝堯時有五星、自天而隕。
帝堯の時、五星、天より隕つる有り。
古代の堯帝の時代、天上より五惑星(の精)が堕ちてきたことがありましたのじゃ。
ずどどど〜ん。・・・・・・・・・
「うひょひょひょ」
と土煙の中から杖をつきながら出てきましたのは白髪白髯のかなりのじじい。
是土之精、墜於穀城山下。
是、土の精、穀城山の下に墜つ。
これは「鎮星老人」。土星の精で、落ちたのは穀城山の麓でありました。
「穀城」は山東・東阿の地、春秋の斉の時代からある重要な都市国家であります。
さて、このじじいは、長いこと穀城のあたりに地仙として棲んでおりましたが、★秦の末に圯橋のほとりに現れ、後に漢の高祖を補佐して天下を統一させることになる大軍師・張良(字・子房)(ただしこの時は、お尋ね者のテロリスト)に、
以兵書授。
以て兵書を授く。
兵書(「黄石子」)を授けた。
ので有名である。
このとき、張子房に、
後求我於穀城山下、黄石是也。
後に我を穀城山下に求めよ、黄石これなり。
「後でまたわしに逢いたくなったら、穀城の山のほとりに来なされ。黄色い石があったら、それがわしじゃ」
と教えたのであった。★
★〜★は、「史記」巻五十五「留侯世家」に書いてあることです。(詳しく?は→「黄石公」)
「史記」は「正史」のような顏をしておりますが、こういうSFじみた伝説・伝承(おそらく神聖演劇として伝えられていたもの)を集めて成ったもの、と理解していただいておいたほうがいいと思いますね。
さて、張子房は高祖を援けて漢に天下を得さしめた後、東の方、山東に旅して
於穀城山下、果得黄石焉。
穀城山下に果たして黄石を得たり。
穀城山のふもとで、はたして黄色い石を見つけたのであった。
「なんと、ほんとうのことであったのか」
世界の不思議に目覚めた子房は侯爵としての権勢を捨てて商山に隠棲し、四人の老道士たちに教えを乞うて「道」(たお)を求めたのでありました。
やがて張家では子房が死んだと発表し、
其家葬其衣冠・黄石焉。
その家、その衣冠と黄石を葬れり。
張家のひとたちは、子房が漢帝から賜った衣服と冠を棺に入れ、また墓域には当人が山東から運んで来ていた黄色い石を埋めた(と記録した)のであった。
地気を観る能力を持っている術師たちは、誰もかれも
常見墓上黄気、高数丈。
常に墓の上に黄気、高さ数丈なるを見る。
張子房さまの陵の上には、いつも黄色いオーラ状のものが数メートルの高さまで噴き出しておりますな。
と言っていた。
――――時は移り、漢帝国は王莽の新に簒奪され、さらにその新末に天下に大乱が起こった。いわゆる「赤眉の乱」である。
この乱の中で、子房の陵は
為赤眉所発。
赤眉の発(ひら)くところと為る。
反乱軍の兵どもによって墓荒らしを受けた。
「漢の功臣の墓だ、いいものが埋まっているはずだぜ」
「ひひひ」
と墓はあばかれたが、
不見其屍、黄石亦失所在。
その屍を見ず、黄石もまた所在を失う。
張良の死骸も、黄色い石も、どこにも無かった。
張良さまはいわゆる「尸解」という方法をとって、死んだと見せかけて仙人になってしまったのです。
そして、
其気自絶。
その気、自ずから絶す。
黄色いオーラ状のものも、いつの時代からか、術者たちにも見えなくなってしまっていた。
黄色い石の方も地上でやることが無くなって、宇宙に帰ってしまったのであろう。
・・・・・・・・・以上、土星の精「鎮星老人」のお話は終わり。
さてさて、ほかの惑星の精はと言いますに・・・・・・
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五代・杜光庭「録異記」巻七「異石」より。明日は(やる気が続いていたら)「歳星童子」(木星こぞう)が登場するよー。
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