本日は女性四人と食卓を囲んでまいりました。四人平均すると二十台、すさまじく妙齢となられるという方々であられた。みなさまの楽しい会話になかなか参加できないわたくしでございますが、食卓での会話では楽しくお話できない分、こちらで楽しい楽しいお話をしましょう。
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昨日のお話より数年の後、唐・文宗の開成年間(836〜840)のことだそうでございます。
隴西の李生なるもの、四川・利州の録事参軍(事務担当の参謀)として赴任していたが、
居於官舎中、嘗暁起、見蛇数百在庭。
官舎中に居りてかつて暁起し、蛇数百の庭に在るを見る。
官舎に住んでおりました。ある日、朝起きてみると、ヘビ数百匹が官舎の庭にうねうねとうねっていたのであった。
「うひゃあ」
李生は大いに驚き、吏卒に命じてこれらをことごとく集めて郊外に棄てに行かせた。
其明旦、群蛇又集於庭。
その明旦、群蛇また庭に集まる。
翌朝、群れ成すヘビはまた庭にうねっていた。
「どひゃあ」
李生はさらに驚き畏れ、吏卒に命じて
「はやくはやく棄ててまいれ」
とまた郊外に棄てに行かせた。
翌朝は何もありませんでした。・・・・・が、
後一日群蛇又至。
後一日、群蛇また至れり。
その次の日に、群れ成すヘビがまたやってきていたのだ。
飼犬とか猫が戻ってくるみたいで、ドウブツ愛護の人には感動モノのお話かも。
しかし、相手はにょろにょろのヘビである。李生、涙を浮かべつつ曰く、
豈天将禍我乎。
あに天のまさに我に禍いせんとするならんか。
お天道さまが、わしに何か災いを降そうとしている、そのしるしなのではないだろうか。
と。
そして身を慎み、斎戒して日々を送っていた。
十日程したある日、上官である刺史(知事)の使いがやってきて、
「李参軍どのが家から何度も何かを運び出された、という噂が立っております。あるいは官物横領の疑いもありうるゆえ、取り調べてまいれ、とのことにございます」
と鄭重に申し述べた。
李生はかなり憔悴したふうであったが、
「・・・持ち運んだのはヘビじゃ・・・。何の疚しいところもござらぬ。邸内をお調べくだされ・・・」
と使いの者を招き入れた。
使いの者、邸内に入り取り調べの準備をしながら言うには、
且聞於天子。
まさに天子に聞せん、と。
「そうそう、この問題は都の天子さまも気にかけておられるとか・・・」
このことが真実であったか否かはわからない。ただ、李生はそれを聞いて
「あわわわ・・・、な、なん、なんだと、て、てん、天子、天子さまが・・・・」
惶駭無以自安。
惶駭して以て自ら安んずる無し。
驚き、慌て出し、落ち着きを失ってしまった。
その後しばらくして、家人が李生の姿が見えないので探していると、
縊於庭樹。
庭樹に縊れたり。
裏庭の木に縄をかけて、首をくくっていたのであった。
すぐ降ろされたが、もう息は無かった。
生有妻、感生不得其死、亦自縊焉。
生に妻有り、生のその死を得ざるに感じ、また自ら縊る。
李生には妻があったが、夫がまともな死に方をしなかったことにショックを受け、彼女もまた首を吊って死んだ。
「うひゃあ」「だんなさまに続いて奥さまも〜!」「うわ〜ん」
於是其家童震慴、委身於井者且数輩。
ここにおいてその家童震え慴(おそ)れ、身を井に委ぬる者まさに数輩なり。
ここにおいて、李生の家に使われていた召使(の童子)たちは震えあがって恐れ、井戸に飛び込んで自殺したものが何人もいた。
これが天の降した災いであったのだろうか。
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昨日と同じく唐・張讀「宣室志」巻十より。楽しいお話でちたねー。こんな楽しいお話をしたら、女の人も喜んでくれるでしょう。