週末まであと四日・・・。・・・もうイヤだ。
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紀元前の・・・四世紀ぐらいのこと。
市南宜僚(しなんぎりょう)が魯の侯爵にお目通りしたとき、魯侯は市南先生の姿も目に入らないようで、ユウウツそうに
・・・もうイヤだ。
と呟いていた。
「しっかりしろ」「期待している」「君ならできる」「がんばれ」
と言いたくなる向きもおありかも知れませんが、市南先生は魯侯に声をかけて曰く、
君、有憂色、何也。
君、憂色有るは、何ぞや。
「わが君、何を憂いていなさるのかな?」
と訊ねたのであった。
魯侯、市南先生の姿に気づき、「先生、いらっしゃっておられたのか・・・」と力無く言うた。
吾学先王之道、修先君之業。吾敬鬼尊賢、親而行之、無須臾離居。
吾、先王の道を学び、先君の業を修む。吾、鬼を敬い賢を尊び、親しみてこれを行い、須臾も離れ居ること無し。
「わたしはいにしえの王者たちの定めた政治手法を学び、御先祖たちの為してきた国を治めるという仕事を行っている。わたしは精霊をうやまい、賢者をたっとび、自分自身で統治を行い、いにしえの王者や御先祖たちのやり方からほんのひと時も離れることはないのだ。
なのに・・・
然不免于患、吾是以憂。
然るに患いを免れず、吾ここを以て憂うるなり。
それなのに、イヤなことが無くならないのだ。だからわたしはイヤで仕方なくなっているのだ」
どうやらウツです。つらそうです。
市南先生は言うた。
「わが君、イヤなことが無くならないのはイヤなことでございますな。しかし、あなたが行っているイヤなことを無くす方法は、まだまだ浅はかと言うべきでございましょう」
「なんと」
「わが君よ、
夫豊狐文豹、棲于山林、伏于岩穴。静也。夜行昼居。戒也。
それ豊狐・文豹は山林に棲み、岩穴に伏す。静なるなり。夜行き昼居る。戒しむるなり。
御存じのとおり、ふわふわと豊かな毛を持つキツネ、きらきらと美しい模様の皮を持つヒョウは、山の森の中に暮らし、岩穴の中に寝ます。彼らは静かに引きこもっている。その活動は夜行われ、昼間はじっとしている。警戒しているのです。
たとえ飢え渇いても、なお人の近づくような江のほとり湖のみずべには近寄りません。
しかし、それでも網やカスミ網、ワナや落とし穴に捕らえられることがあるのでございます。
是何罪之有哉。
これ、何の罪有るや。
これは、一体どんな罪があるからでございましょうか?」
「う〜む。・・・彼らになお注意の足らないところがある、ということか」
「そんなことはございません。彼らは十分に注意しております。ただ、
其皮為之災也。
その皮のこれがわざわいを為すなり。
彼らの毛皮が魅力的であること―――これが彼らが災難に遭わねばならぬ罪なのでございます。」
「!」
「ああ、わが君よ。
今、魯国独非君之皮邪。吾願君刳形去皮、洒心去欲、而游于無人之野。
今、魯国ひとり君の皮にあらずや。吾願わくば、君の、形をえぐり、皮を去り、心を洒(あら)い、欲を去りて、無人の野に游ばんことを。
現状においては、(あなたが背負いこんでおられるその)魯の国こそがあなたの魅力的な毛皮なのです。わたしは、あなたが、表面を刳りぬいて姿を変え、その毛皮を剥ぎ取り、さらに心を洗い、欲望を棄て去って、誰もいないあの原野をさまよわれるのがよろしいかと思いますぞ。」
「・・・誰もいないあの原野、とは?」
「おお、御存じございませぬか。
南越有邑焉、名為建徳之国。
南越に邑あり、名づけて建徳の国と為す。
越の南のかなたに、一つの都市国家がございます。その名を「成功した国」と申しまする」
「南のかなたにそのような国が?」
「あるのでございます。
其民愚而樸、少私而寡欲。
その民は愚にして樸、私少なくして寡欲なり。
その地の人民どもはオロカにして純粋、自分を主張すること少なく、欲望もあまりない。
知作而不知蔵、与而不求其報。不知義之所適、不知礼之所将。猖狂妄行、乃踏乎大方。
作るを知りて蔵するを知らず、与えてその報を求めず。義の適くところを知らず、礼の将(もち)いるところを知らず。猖狂にして妄行し、すなわち大方を踏む。
生産に従事することは知っているのだが、蓄えるということは知らない。与えるということは知っているが、対価を求めるということは知らない。この世の正義がどうである、とか、社会のルールを守らねばならぬとか、そういう考えを知らない。何にも縛られずに好き放題にやり、大いなる道を堂々と歩いて行くのだ。
其生可楽、其死可葬。吾願君去国捐俗、与道相輔而行。
その生や楽しむべく、その死するや葬るべし。吾、願わくば君の、国を去り俗を捐(す)て、道とともに相輔して行かんことを。
彼らは生きている間は楽しく生きる。死ねば葬られればそれでよい。
わが君よ、わたしは、あなたが魯の国を去り世俗の生活を棄て、「道」と助け合いながらその国に行くことをお薦めいたしますぞ」
「う〜ん・・・。すばらしい、すばらしい・・・のだが」
魯侯は腕を組んで考え込んだ。
「・・・しかし、先生、そこは遠いのでしょう?」 (続く)
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「荘子」山木篇より。今日はここまで。下線部はどれもこれも有名な「成語」になっていますので、貪欲に覚えましょう。
明日に続きますが、明日のお話を待たずに、才能や評価などのかっこいい毛皮着ているひとは早いとこ脱ぎ捨ててしまっておいていいと思います。どうせそれは要りませんから。