もうすぐ月曜日・・・。
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唐の重臣・沈詢はある側妾を愛すること深く、正妻が妾を害せんとするほどであったので、その妾を
私以配内豎帰秦。
私かに以て内豎の帰秦に配す。
内々に、自分に仕える宦者である帰秦と夫婦ということにした。
「豎」は「子ども」とか「小役人」を意味しますが、「内豎」は「宦官」のことである。去勢されて君主・貴人の内回りのことを取り扱う男子。
帰秦は宦者であるから普通の男女のことはできぬ。妾は帰秦と夫婦になったとはいえ、そのような交わりは持てなかったのである。
一方、沈詢にしてはもともと溺愛していた女である。
詢不能禁、既而妾猶侍内。
詢は禁ずるあたわず、既にして妾なお内に侍す
沈諄はその女との関係を断ちきることができず、しばらくするとまた自分の傍で奉仕させるようにした。
「おい、帰秦さんよ、女房が旦那様のもとに戻っちまった、てなあ」
と宦者仲間は帰秦をからかう。もともと同じ去勢者のくせに妻帯した、というので一時は帰秦を羨んだやつらだ、こうなると面白がって囃したてた。
一方、帰秦も妻帯した当時は去勢者仲間に対して得意満面だったこともある。
帰秦恥之。
帰秦これを恥ず。
帰秦は、このことで面目をつぶされたと感じた。
そして、
「ひとの女房を、どういうつもりだ」
と沈詢を憎んだ。
憎しみ、ひとかたならず、
乃挟刀伺隙殺詢及其夫人。
すなわち、刀を挟んで、詢及びその夫人を殺さんと隙を伺う。
やがて、いつも刀を持ち歩き、沈詢とその正妻(宦者である帰秦を軽んずること甚だしかった)を殺すすきが無いものかと狙い続けるようになった。
さて、ある晩のこと、沈詢とその正妻は自分の配下たちを招いて官舎においておおいに宴会を行った。
このとき、俳優たちは夫婦の捧げるうたを新たに作って披露した。うたに曰く、
莫打南来鴈。 南来の鴈を打つなかれ。
従他向北飛。 他(かれ)に従がいて北に向かいて飛ぶなり。
打時双打取。 打時には雙つながら打取せよ。
莫遣両分離。 両つに分かれ離れしむることなかれ。
南から来た雁を射落としてはだめよ。
あの人と一緒にまだ北に向かって行くんだから。
射落とすときには二羽とも射落としてあげなきゃね。
あの人と離れ離れにしてはだめなのよ。
宴会の裏方として働いた帰秦はこの日、夫婦ともに酔うているのを見てとって、官舎から私邸へ、
及帰而夫婦併命。
帰るに及びて夫婦併命せり。
帰宅したときを見計らって、沈詢と正妻をともに殺した。
―――打時には雙つながら打取せよ、両つに分かれ離れしむることなかれ。
うたの予言が的中したのである。
時に咸通四年(863)のことでございました。
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宋・銭易「南部新書」庚巻より。合理的には何でそんなことするのかわからないようなことでも、ニンゲンは追い込まれると仕出かすことがあるのです。みなさんから見たら取るに足らぬ小モノでも、あまり追い込むと予想もしなかった反抗をすることがあるかもよ。(と、誰かおいらの上司に教えてあげてください。)