平成24年8月6日(月)  目次へ  前回に戻る

 

台風の吹き返しというやつが、強い雨を伴って今もまだびいびいとうるさいのです。ああ、うるさい!

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南北朝の時代、南の梁の国、宣州の町の知事さまは、

@大郡、不事産業。

大郡に@むも産業を事とせず。

大きな郡を任されていながら、しごとがだいっ嫌い。

という人でした。

このひとが、役所で早く仕事が終わらないかなあ、とぼんやりしていると、門の外で「からん、からん」と音がする。

左から来て右の方に行ってしまった・・・かと思うと、また右の方から「からん、からん」とやってきて、左の方に行く・・・と思うと、また左から戻ってきて「からん、からん」とうるさく鳴りまして、また右へ・・・。

「ええい、うるさい!」

知事さまは立ち上がりまして、

「門の外の、あの「からから」とうるさいモノをここへ連れてまいれ!」

とお付きの者に命じた。

「ふあい」

とお付きの者が出ていきまして、しばらくして、

「知事さま、「からん、からん」とうるさいのはこれでございました」

と連れてきたのは、一人の僧である。

「このぼうずが、「からん、からん」と鳴っていたのか?」

「うほほほ」

僧はにこにこと申しました。

「わしは華北からやってきた僧にございます。知事さまがお聞きになられましたのはこの音でございましょう」

と、肩に担いだ棒の先に結び付けた瓢蘆(ひょうたん)を指さし、それを上下にゆすぶったのである。

「からん、からん」

とうるさい音がした。

「そうじゃ、その音じゃ。何が入っているのでそんなにうるさいのかな?」

「うほほほ」

僧、いきなりひょうたんを持ち上げ、庭先に走り出してこれを庭石に叩きつけた。

ぱりん!

ひょうたんが割れ、中からは一巻の書物が現れたのである。

「この書を・・・」

僧から手渡された書を読み進めるうちに知事の顔色が変わった。

「こ、これは・・・「漢書」の「序伝」のようじゃが、し、しかし・・・」

「さよう、これは

三輔旧書、相伝以為班固真本。

三輔の旧書にして、相伝えて以て班固の真本なりとす。

長安周辺に古くから伝わる書でござる。ひとびと、これこそ漢書の著者・班固の直筆本だというてござる」

其書多有異今者、而紙墨亦古、文字非隷非篆。

その書、多く今と異なることあり、而して紙墨また古にして、文字は隷にあらず、篆にもあらず。

その書には、当時伝来の「漢書」とは違うところがいくつもあった。また、紙も墨のあとも古めかしく、字体は漢代の隷書でもなく秦以前の篆書でもない、独特のものである。

「あわわ、なんという貴重な書であろうか」

知事は

固求得之。

固くこれを得んことを求む。

ぜひこれを譲ってほしい、と思った。

そこで

「これをぜひ譲ってくれい」

と僧の方を振り返った・・・が、もう僧の姿はそこには無かった。

行方をくらましたのである。

こうして知事の手元に残ったこの書、まことに貴重な書であり、「瓢蘆漢書」と呼ばれて知るひとぞ知るものでございましたが、知事が

甚秘之。

甚だこれを秘す。

これをたいへん深く秘密にした。

ので、残念なことに今に伝わらない。

なお、この知事は梁の皇族であった䔥琛(しょう・ちん)、字・彦瑜であるといい、だとすればその著「漢書文符」にこの班固直筆本を解読した成果が生かされているはずだが、「漢書文符」自体が逸した今、そのことを探るよすがも無いのである。

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清・高士奇「天録識余」巻下より。

どうせこのひょうたんを担いだうるさい僧のことはつくりばなしでしょう。しかしこの窓の外の風の音は本当にリアルにうるさい。怒鳴りあげるかのように「ごうごう」といい、まるでむせび啼くように「ひゅうひゅう」といい、あるいは不平を持つ者のように「ぶうぶう」という。わしは風の音うるさいからなかなか眠れない→不眠→うちゅうちゅ。

 

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