まだしばらく平日だよー。
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昨日の続きです。
まず「縦横」(しょうおう)につきまして。
史記・蘇秦伝(巻六十九)、張儀等伝(巻七十)に「合従連衡」のことが述べられております。すなわち、戦国の後半、強大化した西の秦に対して、残りの六国がどう対応するか。鬼谷先生に学んだという説客、洛陽のひと蘇秦は残りの六国が北から南にだいたい燕・斉・趙・魏・韓・楚の順で並んでいるので、その南北の同盟を結び、「縦」に力を「合」わせて秦と対するべし、という「合従」(合縦)の論を立てて各国に説き、ついにこの同盟を成功させ、一時期は「六国の相印」(六か国の共通の大臣の公印)を佩びるまでに至った。これに対し、同門の魏のひと張儀は、六か国の同盟を解かせ、それぞれの国が個別に秦と東西の同盟を結んで、「横」に「連」なって友好を保つという「連衡」(連横)の策を説いて、蘇秦を反間の策によって失脚させ、また秦と各国の相印を佩びるに至った。この「縦」と「横」の争いを演じた「説客」たちを「縦横家」と呼ぶ。
張儀伝の太史公論賛に曰く、
三晋多権変之士夫、言従衡。彊秦者大抵皆三晋之人也。夫張儀之行事甚於蘇秦、然世悪蘇秦者、以其先死而儀振暴其短以扶其説、成其衡道。
三晋に権変の士夫多く、従・衡を言う。秦を彊(つよ)くせしむる者は大抵三晋の人なり。それ、張儀の行事は蘇秦より甚だしきも、しかるに世には蘇秦を悪(にく)むは、その先死して儀のその短を振暴し、以てその説を扶(たす)け、その衡道を成すを以てなり。
戦国の三晋(すなわち、春秋時代の「晋」が分裂してできた韓・魏・趙の三国)地方には、実に利害に対応して変化する策を説いて回る者が多く、彼らは「合従」「連衡」を主張したのである。この議論の中で、六国は弱体化し、秦は強くなったのであるから、秦を強くしたのは、(秦のライバルであった)三晋の男どもであったと言うことができよう。特に、張儀の言動は、蘇秦よりも非道である。しかし、世の中では蘇秦の方を悪しざまにいうひとが多いのは、蘇秦が先に死んで、張儀が蘇秦の論の欠点を無理にもあげつらい、自分の説が正しいことを補足し、ついに「連衡」の策を成功させたからであろう。
とにかく、
要之此両人真傾危之士哉。
これを要するにこの両人は真に傾危の士なるかな。
要約するところ、この二人は、ほんとうに国を危険に陥れ、天下を傾ける人物であった、ということである。
と。
天下の「壊し屋」だったわけである。「壊し屋」もここまで言われれば男冥利に尽きるところでございましょう。
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「慷慨」について。
後漢書・斉武王縯伝(巻四十四)に曰く、
劉縯(りゅういん)は字を伯升といい、南陽の人。漢の皇族であった。
性剛毅慷慨、有大節。自王莽簒漢、常憤憤懐復社稷之慮、不事家人居業傾身破産交結天下雄俊。
性、剛毅にして慷慨し、大節あり。王莽の漢を簒するより、常に憤々として社稷を復するの慮を懐(いだ)き、家人・居業を事とせず、身を傾け産を破りて天下の雄俊と交結す。
そのひととなりは気が強く、いきどおり嘆き、気骨があった。王莽が前漢を簒奪して「新」帝国を立ててからは、つねに怒り憤り、漢の社稷(国家)を復活させたいとの思いを抱き、家人や家業をかえりみることなく、自分の体を張り、家の財産を破産させてまでも、天下のすぐれた男たちと交わりを結んだ。
王莽の末年、群雄並び起こると弟の劉秀、字・文叔らとともに兵を起こし、一方の雄として諸将から「大事を図る者は伯升兄弟なり」と信頼されたが、これを憎む同じ一族の更始王に捕らえられ、その日のうちに殺害されたのであった。
兄の仇を討ち、また群雄を滅ぼして後漢を立てた光武帝こそ、その弟・劉秀である。
後漢の成立後、光武帝によって斉武王を諡られ、その子孫は歴代の筆頭王家として建安年間まで続いた。
このひとが「慷慨」のひとだったのです。
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魏徴「述懐」詩にいう、
縦横計不就、 縦横の計は就(な)らざるも、
慷慨志猶存。 慷慨の志はなお存す。
と。上述の故事を踏まえれば、すなわち
戦国の蘇秦・張儀が唱えた合従連衡のような大戦略は(李密のもとで考えたが)うまいこと行かなかったが、
漢の国家を再興しようとした斉王・劉縯のような、いきどおり嘆く熱い心はまだ持っている。
というのですな。
続けていう、
杖策謁天子、 策を杖(つ)いて天子に謁し、
駆馬出関門。 馬を駆りて関門を出づ。
(今、わしは)策(むち)を杖にして皇帝(ここでは唐の高祖)にお目見えし、
(長安から東方の河南に拠る徐世勣らを説得するために)馬を走らせて函谷関の門を出て行くのだ。
これは何とかわかったが、その次に
請纓繋南粤、 纓(えい)を請うて南粤(なんえつ)を繋ぎ、
憑軾下東藩。 軾(しょく)に憑(よ)りて東藩を下さん。
と言い出しました。
これもまた何かの故事を踏まえているらしいぞ。以下、続く。