オトナはしごとがあるので、月曜からたいへん。今週は長そうでちゅねー。おいらはコドモ、しごとがないのでしあわせでちゅ。
ひまなので在園先生・劉廷璣(字・玉衡)おじたまのところに行ってお話を聞きまちゅ。
「おじたま、何かお話ちてー」
「うむ、そうじゃのう・・・」
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長安近辺の関中の商人が犬一匹を連れて行商に出かけ、商談を終えて帰りに黄河のほとりに至り、渡し船に主要な荷物を積み込んで、客が満員になって舟が出るのを待っていたのだが、そのうち腹が痛くなって、岸に上がり、人の見えないところで用便することにした。
犬随往。有布袋裹銀五十両、解置地。
犬随いて往く。布袋に銀五十両を裹むありて、解きて地に置く。
イヌは商人について降りてきた。商人は布袋に当座のお金として銀五十両を入れて腹に巻いていたが、(用便するため)これを解いて側に置いた。
そして、戯れにイヌに向かって、
看好。
よろしく看よ。
「よく見張っておいてくれよ」
と呼びかけた。
ぶりぶり〜。
しばらくすると、船頭の声が聞こえる。
「お客は満員、風はよし、舟を出すぞ〜」
「おお、待ってくれ」
商人はあわてて身づくろいすると、舟に飛び乗った。
商人が舟に乗るや、船頭はともづなを解き、舟はあっという間に帆を広げて、たいへん速度で河を渡り始める。
「待て、わしのイヌが・・・」
長安近くの関中では、黄河の水はまるで瓶の水を流すかのように速い。舟は追い手の風と速い水の流れに乗って、たちまちのうちに二十里(8キロ)ほどを渡りきり、向こう岸についてしまった。
日はすでに暮れようとしており、戻りの舟はない。
商人は明日の朝には向こう岸に戻って、イヌと銀貨を探そうと思った。
しかしながら、もっと大切な荷物は手元にある。
朝になって
「どうして銀貨がそのままになっているだろうか。もう誰かが持って行っているに違いない」
と考え、戻るのを止めて、そのまま郷里に帰ってしまったのだった。
翌年―――。
商人は、また商用に出ることになり、去年と同じ渡し場に来た。
ふと思うに、
銀已無存、犬何帰乎。
銀すでに存する無からん、犬、何ぞ帰せんや。
「銀はもう無いだろう。しかし、イヌはどこに行ってしまったのだろうか」
そこで、昨年用を足した物陰に行ってみた。
すると、
見狗皮覆地。検之、白骨一堆耳。
狗皮の地を覆うを見る。これを検(け)みするに白骨一堆あるのみ。
イヌの皮が、地面にぺたりとはりついている。よくよく調べてみるに、その皮膚の下にはイヌの白骨がひとかたまりあるばかりである。
「ああ、おまえはここで死んだのか」
商人は悲しく思い、イヌの骨を埋めてやろうと地面を掘った。そして、イヌの骨を拾い抱えると、
ちりん―――
金属音が聞こえた。
骨尽則前銀尚在。
骨尽くれば前銀なお在り。
骨を取り除いた下から、昨年の銀貨がそのまま出てきたのだ。
蓋犬守銀不離、甘餓死、覆尸銀上耳。
けだし、犬は銀を守りて離れず、甘んじて餓死し、尸を銀上に覆うのみ。
すなわち、イヌは銀を守ってそこから離れず、自ら飢え死にして、銀を自分のしかばねで隠したということだったのだ。
商人はイヌの義に篤きに思い至って、泣きながらこれを埋め、帰路ひとを雇ってその場に土饅頭を造り、義犬の碑を建てた。
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―――これは、わしの妹のだんなの董紹孔が、かつて西安に赴任していたことがあり、そのときに聞いた話である。
むかしから、
寧畜有義犬。
むしろ有義の犬を畜(やしな)わん。
ほかのものよりは、まずは忠実なイヌを飼え。
と言い習わす。
旨哉言乎。
旨きかな、言や。
味わい深いことばではないか。
のう? 肝冷斎くん。
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清・劉廷璣「在園雑志」巻四より。
大慌てになって大切なものをどこかに置いてきてしまうことはよくありますねー。傘とかね。すぐ気づくんだけど、「ま、いいか」みたいにいい加減に放っておいてしまうこともよくありますねー。気をつけまちょう、という教訓―――なのかな? それとも、シモジモはイヌみたいに命令聴け、ということ?