ドリトル先生をはじめといたしまして、ドウブツと仲良しのひとはいいひとばかりでちゅねー。おいらは・・・。
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景知果という道人があった。わたしは彼と往来があったが、つねに山中に住んで、虎・豹と同処に暮らしていたのである。
馴之如家犬焉。
これに馴るること家犬の如し。
これらが彼に馴れていること、まるでその飼い犬のようであった。
また、
鴉数隻集其肩臂之上、鳴戯為常。
鴉数隻、その肩臂の上に集まりて、鳴き戯るること常と為す。
いつも、カラスが何羽か彼の肩や腕に止まり、鳴きながら彼に戯れているのであった。
あるいは、
有巨蛇時出、知果叱而遣之、蜿蜒而去。
巨蛇の時に出づるあれば、知果叱りてこれを遣るに、蜿蜒として去れり。
巨大なヘビが人前に現れることがあると、彼はこれを叱り、「他の人間に見つかればどんな目に遭わされるわからぬぞ」と諭すのであったが、蛇はまるで言われたことがわかったかのように、うねうねと帰っていくのである。
―――哺乳類、鳥類、爬虫類の各類とともだちだったのでちゅね。
そうじゃ。
あるとき、わたしが彼の庵を訪ねて一泊したとき、
虎三数頭於庭中、月夜交搏騰踏既甚。
虎三数頭の庭中において、月夜に交搏・騰踏して既に甚だし。
トラが三頭か四頭、月の明るい庭に戯れていたが、互いに叩きあったり相手を踏み敷こうとしたりしているうちに(興奮してきたのであろう)、その争いがどんどん激しくなってきた。
わたしはもう眠ろうとしていたのだが、読書をしていた知果道人はさすがに苛立ったらしく、
「いい加減にせよ」
と
持白挺撃之。
白挺を持してこれを撃つ。
「挺」(テイ)はここでは「梃」(テイ)と同じで、丸い棒杖のこと。
白い杖を手にして彼らを殴りつけた。
道人に叱られて、かれらは、しおしおと大人しく逃げ去ってしまったのである。
夏には庵の側の草が延びすぎて、草刈をしようとした。
草の中にはウサギが寝ていたが、彼が鎌を持ってかたわらに寄っても、ウサギは目覚めもしない。
手移於他所。
手もて他所に移す。
彼は手でウサギを持ち上げて、そっと他のところに移してから草を刈り続ける。
そうしてもウサギは目を覚まさなかったのであった。
そのドウブツと仲良しであること、かくのごとくであったのである。
―――ああ、やさしいひとでちゅねー。そのひとは今もお元気なのでちゅか。
・・・彼は、
一旦失所之。
一旦之(ゆ)くところを失う。
ある朝、突然いなくなっていた。
その後、彼の行方を知る者はないのである。
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どこか美しいやさしいひとばかりの世界へ行きましたのでちょー。おめでとー。
お話くださったのは、五代・後蜀の杜光庭さん。(「録異記」巻一より)
ドウブツと仲良しのひとはいいひとばかりでちゅねー。おいらはドウブツきらいでちゅけどね。やつらはたった今までおいらに向かってしっぽを振っていても、より強いご主人さまが現れるとそちらに向かってしっぽを振る種族。信用ならないので。この道士も、もしかして仲良しすぎてドウブツたちにどこかに連れていかれちゃったのかもよ?
あ、でもおいらのこと、心の歪んだひとと誤解しないでくだちゃいね、おいらだって、ニンゲンよりはまだしもドウブツの方が信頼できることはわかっておりまちゅる。