六十貫の錫杖をぶるんぶるんと振り回し、さて町に出て悪いやつらをやっつけようか、と思った瞬間、わしは胸を押さえて
「うう」
とうずくまってしまった。
心不全である。
最近ちょっと過激な運動をすると心不全ですわ。
何とか強い精神力で心不全を克服したが、さすがに錫杖を振り回すのは止めて、静かに読書することにした。
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人有千斤力、始能于馬上運三十斤之器。
人に千斤の力有りて、始めてよく馬上に三十斤の器を運(めぐ)らす。
一斤は約600グラムです。
600キログラムのものを持ち上げる力があって、はじめて馬上で18キログラムの武器を振り回すことができる。
―――というのが相場である。
持ち上げられる重さと馬上で振り回せる武器の重さの比は、33:1ぐらいの比率になるわけです。
確かにわしが南京で大いに力自慢の者どもを集めて武器の扱いを競わしめたときも、
其有五百斤力者、但能挙動而已、不能運転如飛也。
その五百斤力あるものも、ただよく挙動するのみにして、運転飛ぶが如きことあたわず。
300キログラムを持ち上げる力のあるやつでも、(馬上では)ただ武器を持ち上げたり動かしたりすることができるだけで、ぶんぶんと振り回すというような芸当はできなかった。
それを以て考えてみると、「三国志演義」に登場する関羽、張飛、「隋唐演義」の秦叔宝など、いにしえの英雄は
兵器皆重百斤、非万斤之力、不至。
兵器みな重さ百斤、万斤の力にあらざれば、至らず。
その使っていた武器はすべて60キログラムはあろうというものばかり。6000キログラム=6トンを持ち上げる力でなければ、あれほどの武器をぶんぶんとたやすく振り回すことができたはずがあるまい。
(む。なぜか突然持ち上げられる重さ:振り回せる重さの比が100:1になっております。先ほどの「相場」である33:1に直すと、60キログラムの重さの武器を振り回すには1000キログラム=1トンの物を持ち上げる力が必要ということになる。)
(↑4月20日補記:33:1に直すと、どう考えても60キログラムの武器を振り回すには、2000キログラム=2トンの物を持ちあげることが必要です。どういう計算をしていたのか。情けない。情けないので、間違いのまま残して今後の反省材料とする。)
まことに英雄は
是可易得哉。
これ、易く得べけんや。
たやすく見出すことができるものではないのだ。
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と、明・謝肇淛「五雑組」巻五に書いてありました。1トン(←4月20日補記:2トンの誤り)持ちあげる人は、確かにかっこいいであろう。