ちょっと疲れた。今日はほとんど徹夜で午前中不動産屋へ行き、午後は重要な用事を果たし、夕方福岡時代の若い知人たちと会い、それから終電でこの東北の町に着いたのだ。明日も早くから肉体労働ですよ。この年ではきついわ。心臓が・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
武田信玄といえば「信玄袋」「ほうとう」に次いで重要なのが「風林火山」です。
疾(ハヤ)キコト、風ノ如ク
徐(シズ)カナルコト、林ノ如ク、
侵掠(カスメ)トルコト、火ノ如ク、
動カザルコト、山ノ如シ。
という四句からなる旗印「風林火山」は「孫子」の書からの引用ですが、ほかではそんなに聞かないので、これを旗印とした信玄公は、何を考えていたのか。ちょっと奇を衒ったようなところもあったかも知れません。部下からも「「風」は弱いイメージを与えすぎる」という文句も出たようです。
我が国ではこの四句は非常に象徴的な意味のように解されているように思われますが、もともと「孫子」という書の言葉は、短いが極めて具体的なので、この四句も本来もう少し具体的な意味にとるべきではないのかな。
この際、みなさんはおヒマでしょうから、おヒマつぶしにこの句を含む節を讀んで、「信玄公の旗印」とのニュアンスの違いを味わっていただければと思います。
この句は、「孫子」十二篇の第七「軍争篇」の真ん中あたりに出てきます。
・・・・故兵以詐立、以利動、以分合為変者也。故其疾如風、其徐如林、侵掠如火、不動如山、難知如陰、動如雷震、掠郷分衆、廓地分利、懸権而動。先知迂直之計者勝、此軍争之法也。
・・・故に兵は詐を以て立ち、利を以て動き、分合を以て変を為すものなり。
・・・ということで(この前に用兵家は戦争目的、相手の状態、戦域の地理などを知らなければならないといったことを縷々述べている)、軍事というのは騙し合いから始まるのじゃ。自分の側の利益になりそうなことを見極めて動くものじゃ。そして、戦力を分散させたり集中させたりして相手を混乱させることが必要なのじゃ。
ここまでは「孫子」らしく短い文章ながら意味することは具体的です。
故にその疾きときは風の如くなるべく、その徐むろなるときは林の如くあるべく、侵掠には火の如く、動かざるには山の如く、知り難からしむことは陰の如く、動きては雷震の如く、郷を掠むるには衆を分かち、地を廓するには利を分じ、権を懸けて動くべし。まず迂直の計を知る者は勝つ、これ、軍争の法なり。
これを、十一家の注を参照して讀んで行くと、次のようになります。
というわけで、行動を速やかにしなければならないときは風のように相手に気づかれぬようにせよ。
ゆっくりと行動すべきときは林のように隊列を整然とさせよ。
侵掠(敵国に攻め入るとき)は火が草原を焼き尽くすように何物も残させないようにせよ。
防御の際には山のように一か所も揺るがないようにせよ。
行動や軍勢については、曇りの日に太陽や月や星が見えないように相手にわからないようにせよ。
行動を起こしたときは雷が耳をおおうひまもなく落ちるように、また避けることができないように、素早く動け。
村落を掠奪するときは、部隊を分散させて、集落ごとに掠奪させること。
敵地を得たときは、要害の地に守備隊を分けて置くこと。
これらについては、おもり(「権」)を懸けて釣り合ったところで量りの目盛を読み取るように、ちょうどよいところを見極めなければならない。
相手の行動を見極めてから、相手より先に目的地に達する、という「迂直の計」を事前に建てた者が勝利するのだ。これが用兵のことわりなのだ。
・・・こう讀んでみると、かなり具体的、マニュアル的なテキストである、と解されていたように読めますね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ああ、明日もしごとで早いんですわ。もう寝ないと。「注」をこまごまと讀んでいくことにこそ、まことに古典を読む楽しみがある。そのことを紹介したいのに、世間さまがそれを許してくださらぬのじゃ。ああ、ああ。
十一家注「孫子」巻中「軍争篇」より。