「つらいです」
―――何がつらいのじゃ。
「やっぱりしごとです。自分の力量以上のことはできませぬのに・・・」
―――そうか・・・
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明の世のことである。張王基というひとの家に、何の取り柄もない老いた下男がおったが、その
陰嚢大如斗。
陰嚢大なること斗のごとし。
きん○まぶくろは一斗マスほどもあったのであった。
明代の一斗は10リットル強であるから、かなりのでかさといえよう。
陝西の大商人・某というものがそのことを聞き知って、その下男を譲ってほしい、と言うてきた。
張が
「何の取り柄もない下男でございますぞ。どうなさるおつもりかな」
問うと、某商人は曰く、
「何を御隠しする必要がありましょうか。あの者のふくろの中身はおそらく天下の至宝でございます」
「なんと、それでは生きたままあの者のきん○まぶくろを切り開こうというのですか」
某商人大いに首を横に振った。
「そないなもったいないことができますかいな。生きさせれば生きさせるほど大きくなるのでございますからな」
下男は某に雇われ、苦労無く何年か暮らしていたが、やがて老衰して死んだ。
下男が死ぬと某商人はようやく
破嚢。
嚢を破る。
きん○まぶくろを破り開かせた。
すると、中から
得二玉碗、世所絶無。
二玉碗の世に絶えて無きところを得たり。
二枚の玉製のお椀が出てきたのである。その大きさ、色つや、この世に二つとない見事なるものであった。
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―――どうじゃ?
「はあ? なにが?」
―――この話を聞いて、すっごく愉快な気分になって来ぬか。何の取り柄もないおまえにももしかしたら玉碗ぐらい入っているかも。わっはっはっはっは。
「いや・・・。ぜんぜん愉快には・・・」
―――う〜ん、かなりの重症じゃな。やはりしごとを○めるしかないかも。
「・・・わかりました・・・」
―――ちなみに、この愉快?なお話は、「元明事類鈔」巻二十六より。もと「壟起雑事」という書に書いてあった、ということじゃぞ。