平成24年1月20日(金)  目次へ  前回に戻る

 

今日は少しだけ雪降った。(in首都圏)

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今日は「ごんぎつね」みたいな、心温まる子ども向けのおとぎばなちでちゅー。二世・肝冷斎ちゃんが担当いたちまーちゅ。

江蘇・下坯の商人・徐安ちゃんは働き者の溌剌とした若者であった。その妻・王氏は町でも有名な美人で、二人は仲睦まじく暮らしておりまちたー。

開元五年(717)の秋のことでございまちゅ。

「じゃあ、行ってきますよ」

「あんた、浮気はダメよ」

「う〜ん、どうかな」

と見つめ合い、それから別れのキッスをかわしまちて、徐安ちゃんは同じ江蘇の海州に所用あって出かけたのでございまちた。

・・・・・数か月後、用務を終えて帰ってきた徐安。

たっぷりと王氏と愛し合おうと我が家の門をくぐったのだが、久しぶりで会った王氏の様子が変である。

恩義殊隔。

恩義、ことに隔つ。

心が通わないのだ。

「どうかしたのか?」

とその手をとってみると、王氏は眉をしかめ、まるで汚らしいものが触れたかのように手を振りほどいた。

「ふん。何か虫の居所が悪いのか?」

「・・・・」

王氏は無言であった。

妻至日将夕、即飾装静処、至二更乃失所在。

妻、日のまさに夕べならんとするに至るに、すなわち装を飾りて静処し、二更に至りてすなわち所在を失う。

やがて、その日が暮れるころになると、王氏はいそいそと化粧をし、派手な服を着て、部屋の隅にじっとしていた。

そして、夜更け―――、突然その姿を消してしまったのである。

「?」

徐安は慌てて家の中、中庭、物置などを探したが、皆目見当たらぬ。

ところが、明け方になって家の中に戻ってみると、いつの間にか王氏は部屋の中に座っていた。

「どこに行っていたのだね?」

と詰問したが、王氏はぐったりと疲れているふうで、薄目をあけてわずかに徐安を見、

「ヒヒヒ」

と笑っただけで、すぐ寝入ってしまったのである。

―――このアマ、どういうことだ!

徐安は愚かな男ではない。

「そういうことかな? そういうことならわたしにもやりようがあるってもんですよ。ふん」

・・・・? どういうことなのかな? 子どもにはわからないの。

彼はその日の夕方、やはり無言のままの妻に、背後から近づくと、いきなり細縄で縛りあげてさるぐつわをかませ、行李の中に放り込んでしまった。

そして自らは妻の晴れ着を着こんで、

袖短剣。

短剣を袖にす。

袖の中に短剣を握りしめる。

そして、日の暮れ方から昨日妻のいた部屋に座り込んでいた。

日が暮れ、二更の時刻になったころ、部屋の窗から、

故籠(古いかご)

がふわふわと入ってきたのである。

―――なんですかね、これは?

徐安はためしにその籠に入り込んだ。

すると、籠は

忽従窗而出。

たちまち窗より出づ。

すぐに窗からふわふわと飛び出した。

―――・・・・。

籠は

径入一山嶺。

一山嶺に径入す。

ある山の中にふわふわと入って行ったのである。

やがて籠は、山中のくぼみに下りた。そこには幕がはりめぐららされ、あかあかと灯りがともり、酒や料理が並べられている。

座有三少年。

座には三少年あり。

そして三人の若者が待っていた。

三人とも、ぞくぞくするほどいい男である。だが、彼らには何かしら、たとえば画の中の人間が画中から脱け出してきてそこにいるような、違和感がある。一言でいえば―――そうだ、陰がないのだ。薄っぺらな紙に描かれたように、奥行きのない表情をしているのだ。

若者たちは籠が降りると、席に坐したまま、

王氏来何早乎。

王氏、来たること何ぞ早きか。

「王奥さん、今日は早めに着いたね」

と声をかけてきた。

「ふひひ、奥さん、おれたちと会うのが楽しみになってきたんだろうね」

「へへへ」

「ひひひ」

と嬉しそうでちゅ。

と―――、

安乃奮剣撃之。

安、すなわち剣を奮いてこれを撃つ。

徐安は声も出さずに剣を振り回して、三人に飛びかかったのでちゅ!

「うひゃあ」

三少年死于座。

三少年、座に死す。

三人の若者は、その場でこときれてしまったのでちゅー!

―――長居はせぬがよい。

徐安はまた籠に乗ったのでちた。

「行け!」

・・・・・・・・・だが。

即不復飛矣。

すなわちまた飛ばざるなり。

もう飛ばなくなっていたのであった。

「しようがないなあ・・・」

徐安はそのまま三人の死体の前で夜を明かした。

朝日の中で

視夜来所殺少年、皆老狐也。

夜来殺すところの少年を視るに、みな老狐なり。

夕べ殺したやつらを見てみると、すべて年長けたキツネに変じていた。

「なんだ、キツネだったのか。・・・・・・じゃあ、しようがないのかなあ」

徐安は日が昇ってから山道を歩いて降り、昼前には家に帰りついて、行李のふたを開けて王氏を出してやった。

さるぐつわを外すと、王氏は

「いったい、どうしてこんなことをするのよ! いたずらにもほどがあるわよ!」

と徐安を叱りつけるのである。

「それに、なによ、あたしの服なんか着て・・・。ヘンタイ? あなた、ヘンタイなの?」

徐安、それを聞いて、

「やっとおまえに戻ったね」

と妻を抱きしめたということである・・・。

・・・・・・後に王氏が知り合いに告げたところでは、

「あたしはキツネに化かされていたんだからしかたがない、―――ということにしてあるんだけど、実のところ、うちのひとが海州に出かけてから十日ばかりしてから、

有一少年状甚偉。

一少年の状、はなはだ偉なるあり。

一人目のすっごくいい男が、来たのよ。

そして、あたしをじっと見つめて、

可惜芳艶、虚過一生。

惜しむべし芳艶よ、虚しく一生を過ぐさん。

「なんと惜しいことか。こんな素敵なひとが、あんな男と無意味な人生を過ごすことになるとは」

と言ったの。

それで、あたしはいっぺんにめろめろになったんです。まあ、その時点では自覚的に浮気したわけでしてえー」

韓流おんなの言い訳みたいでちゅね。

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唐・薛用弱「集異記」より。

どうちてみんな仲良くできないのかなー。徐安ちゃんは王氏ちゃんと仲良しなのに、王氏ちゃんと仲良しのキツネちゃんたちを殺ちてちまうなんて、おかちいでちゅよねー。最後に「おまえだったのか、ゴンよ・・・」と涙ぐまないと、子どもは感動できまちぇんよ。

 

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