平成23年6月6日(月)  目次へ  前回に戻る

 

清の嘉慶年間、浙江・青浦に程元恭という読書人がいて、彼の名は周辺の一府三県に鳴り響いていたのである。

何ゆえであろうか。

善飲。一吸百鐘。

善く飲むなり。一たび吸えば百鐘す。

酒を大量に飲むのである。どんな場でも必ずさかずき百杯を飲み干すのであった。

しかも、どれだけ飲んでも顔色一つ変わらないのである。

あるとき友人の祝いの席に出た。

彼の席だけ、さかずきが四つ置かれ、他のひとの四倍の酒が酌がれるのであるが、彼はそのさかずきを次々に干すのであった。

ところでこの座中に楊州から来た某というひとがあった。

このひとが全くの下戸で、一滴の酒も飲めない。

「ふふうん」

程がそのひとをぎろりと見て、さも勝ち誇ったようにさかずきをあけた。

すると、その某が貧相そうな顔で言うたのである。

人各有能有不能。何以卑我。

ひと、おのおの能あり、不能あり。何を以て我を卑とするや。

「ひとにはそれぞれ得意ごとと不得意ごとがあるのでござる。どうしてわしを軽蔑なさるのか・・・」

「ほほう・・・」

程は軽蔑のほほえみを口元に浮かべながら、訊ねた。

君何能。

君、何を能くするや。

「じゃあキミは、何がお得意なんですかな?」

某、答えて

「わしは

能飯与菜。

飯と菜を能くす。

メシとおかずを得意としておる」

そしてにやりと笑ったのであった。

「ほほう。そこまでおっしゃるなら・・・。見せてもらいましょうぞ」

程は主人とその料理人を呼んで事情を説明した。

〽6月6日に雨ざあざあ降って来て 三角定規にひび入って、コッペパン二つ、アンパン二つ、豆三つ。あっという間に・・・・

コックさんも呼ばれてきたのです。

「わかりました。とにかく量の多いものを作ってみましょう・・・」

早速、

○四豚蹄(ブタ肉四匹分、足つき)

○飯二盂(巨大な皿に二杯分のメシ)

○魚肉数碗(大鉢数杯にてんこ盛りのサカナ)

が持って来られたが、某は、

頃刻啖尽、腹猶未果。

頃刻に啖(く)い尽くし、腹なおいまだ果たさざるがごとし。

あっという間に食べつくしてしまい、それでもまだハラがいっぱいにならないようであった。

「なるほどのう・・・」

程亦瞠乎、自以為不及。

程また瞠乎として、自ら以て及ばずとなす。

さすがの程も、「いや、わしもかなわぬ」と目をみはったという。

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「明斎小識」巻二より。

大事なことなのでもう一回言いますよーーー!

人各有能有不能。何以卑我。

ひと、おのおの能あり、不能あり。何を以て我を卑とするや。

「ひとにはそれぞれ得意ごとと不得意ごとがあるのでござる。どうしてわしを軽蔑なさるのか・・・」

しかも大きい字で言うてみた。

これをわしもみなさまに言いたい。言いたかったのじゃ。

ただし、

「では何の能があるのか?」

と問われると

「うーん」

と考えこんでしまわないといけないのが困ったことです。

なお、わしは若いころと違ってもう食うのも得意ではなくなっている。くるくるずし25皿食ってから牛丼2杯食うようなことはもうできぬ。フードファイターとしても、もう力尽きたのだ。

 

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