清の嘉慶年間、浙江・青浦に程元恭という読書人がいて、彼の名は周辺の一府三県に鳴り響いていたのである。
何ゆえであろうか。
善飲。一吸百鐘。
善く飲むなり。一たび吸えば百鐘す。
酒を大量に飲むのである。どんな場でも必ずさかずき百杯を飲み干すのであった。
しかも、どれだけ飲んでも顔色一つ変わらないのである。
あるとき友人の祝いの席に出た。
彼の席だけ、さかずきが四つ置かれ、他のひとの四倍の酒が酌がれるのであるが、彼はそのさかずきを次々に干すのであった。
ところでこの座中に楊州から来た某というひとがあった。
このひとが全くの下戸で、一滴の酒も飲めない。
「ふふうん」
程がそのひとをぎろりと見て、さも勝ち誇ったようにさかずきをあけた。
すると、その某が貧相そうな顔で言うたのである。
人各有能有不能。何以卑我。
ひと、おのおの能あり、不能あり。何を以て我を卑とするや。
「ひとにはそれぞれ得意ごとと不得意ごとがあるのでござる。どうしてわしを軽蔑なさるのか・・・」
「ほほう・・・」
程は軽蔑のほほえみを口元に浮かべながら、訊ねた。
君何能。
君、何を能くするや。
「じゃあキミは、何がお得意なんですかな?」
某、答えて
「わしは
能飯与菜。
飯と菜を能くす。
メシとおかずを得意としておる」
そしてにやりと笑ったのであった。
「ほほう。そこまでおっしゃるなら・・・。見せてもらいましょうぞ」
程は主人とその料理人を呼んで事情を説明した。
〽6月6日に雨ざあざあ降って来て 三角定規にひび入って、コッペパン二つ、アンパン二つ、豆三つ。あっという間に・・・・
コックさんも呼ばれてきたのです。
「わかりました。とにかく量の多いものを作ってみましょう・・・」
早速、
○四豚蹄(ブタ肉四匹分、足つき)
○飯二盂(巨大な皿に二杯分のメシ)
○魚肉数碗(大鉢数杯にてんこ盛りのサカナ)
が持って来られたが、某は、
頃刻啖尽、腹猶未果。
頃刻に啖(く)い尽くし、腹なおいまだ果たさざるがごとし。
あっという間に食べつくしてしまい、それでもまだハラがいっぱいにならないようであった。
「なるほどのう・・・」
程亦瞠乎、自以為不及。
程また瞠乎として、自ら以て及ばずとなす。
さすがの程も、「いや、わしもかなわぬ」と目をみはったという。
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「明斎小識」巻二より。
大事なことなのでもう一回言いますよーーー!
人各有能有不能。何以卑我。
ひと、おのおの能あり、不能あり。何を以て我を卑とするや。
「ひとにはそれぞれ得意ごとと不得意ごとがあるのでござる。どうしてわしを軽蔑なさるのか・・・」
しかも大きい字で言うてみた。
これをわしもみなさまに言いたい。言いたかったのじゃ。
ただし、
「では何の能があるのか?」
と問われると
「うーん」
と考えこんでしまわないといけないのが困ったことです。
なお、わしは若いころと違ってもう食うのも得意ではなくなっている。くるくるずし25皿食ってから牛丼2杯食うようなことはもうできぬ。フードファイターとしても、もう力尽きたのだ。