平成23年2月4日(金)  目次へ  前回に戻る

春節ですなあ。よりてうららかな春の日のものがたり。

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春のうららかな日でございます。

今日のこの日も黄金の髪のラプンツェルは、一人高い高い塔の上で、風の行くのを頬に受けながら、日がな一日雲を見つめて暮らしておりました。(注)

注=黄金の髪のラプンツェルが塔の上に閉じ込められた経緯は、グリム童話を参照してください。おお、それとも何でもご存知のみなさまじゃ、参照せずともご存知かも。

生まれてこのかた、一度も地上に降りたことのないラプンツェル、もう十といくつかになって、最近は好奇心も湧いてまいりまして、地上のことが知りたくてなりません。

「ああ、このうららかな春の日に、地上はどうなっているのでしょう」

と歌うように口にしていると、

ぶーーーーーーーーんんんん

「これはこれはラプンツェルさま、ご機嫌うるわしう、ぶーーーーーんんん」

と、ハチの蜂の介が飛んでまいりました。

「まあ、ハチの蜂の介、地上では何か楽しいことが起こっているのではありませんか。教えてちょうだい」

「これはこれはラプンツェルさま、地上で起こっていることに、楽しいことなどありませぬ・・・。ぶーーーんんん・・・、あ、そうだ、楽しくはございませんが、最近、巷ではオロカな詩人のオロカな歌が大人気でございます」

「まあ、ハチの蜂の介、それはどんな歌かしら?」

そこで蜂の介は歌い始めました。

楚山秦山皆白雲。  楚山、秦山、みな白雲。

白雲処処長随君。  白雲処処 長(とこし)へに君に随う。

長随君、        長へに君に随い、

君入楚山裏、     君が楚山の裏(うち)に入れば、

雲亦随君渡湘水。  雲もまた君に随いて湘水を渡らん。

湘水上、        湘水のほとり、

女蘿衣、        女蘿(じょら)の衣きて、

白雲堪臥君早帰。  白雲臥するに堪えたり、君、早く帰れ。

 楚の山も秦の山もみんな白い雲もくもく、

 白い雲はもくもくと、どこにでもどこにでも、いつまでも君について行く。

 いつまでも君について行くからさ、

 君が楚の山に籠もりに行くならば、

 雲もまた君について楚に向かい、湘水の流れを渡るだろう。

 湘水のほとりで

 女葛を編んだ服を着て暮らそう。

 白い雲の上には寝転がることだってできるのだぞ。さあ、早く帰ろう。

「ぶーーーーんんん、こんな歌なのでぶーん」

「おほほほーーーー」

ラプンツェルは大笑い。

「地上のひとはみんなそんなオロカなのですね。ああ、地上に降りるとオロカが伝染ったりするとイヤだから、わたしはずっとこの塔に住むわ」

「ぶーーーーんんん、それがよろしいでぶーん」

というわけで、今日も暮れ行く。

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ちなみに、このオロカな歌は、李太白

白雲歌送劉十六帰山(白雲の歌―――劉十六が山に帰るを送る)

である。いつも申し上げておりますが、詩人というのは(わたしを含めまして)オロカ者ばかり。しかしこのひとのオロカさは、チュウゴク三千年の中でも光り輝くものがある。

 

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