平成22年10月24日(日) 目次へ 前回に戻る
←神にも人にも見捨てられ状態。(ハマスタ)
今日は某所でずぶ濡れになりましてな。まるでわしは水中の魚のようでした。
あれ? この言葉はどこかで見覚えがあるぞ。えーと・・・そうだ、「左氏伝」じゃ。
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ということで、試みに「春秋左伝」をひもとくに、昭公元年(前541)夏四月、趙孟がどうたらこうたら・・・の条に、周王の使いであった劉定公というひとが、
吾其魚乎。
吾はそれ、魚ならんか。
わしは、そうじゃ、魚であろう。
と言ったと書いてある。
そうか。このひとは魚だったのだなあ。・・・と思いましたが、実は
微禹、吾其魚乎。・・・・@
と言っているのでした。
禹(う)微(なかり)せば、吾はそれ魚ならんか。
(古代、洪水を治めてシナ中原を可耕地にした文化英雄の)禹王がいなければ、わしは、そうじゃ、魚(のように水中に暮らしていた)であろう。
・・・紀元前541年のこの年、晋と楚は、他の小国を随えて、虢(カク)の地において会盟を行い、前536年の宋の盟における勢力範囲の再確認を行った。この際の晋の側の代表が大夫の趙孟で、その会盟の帰りに鄭の地を通った際、周王が劉定公(子爵で名は夏であったと伝わる)を遣わして、その労を見舞ったのである。その際に、劉定公が言いましたのが@の言葉。
劉定公がなんでこんなことを言い始めたのかと言いますと、このあとに、
「あなたさまやわたしがかっこいい冠や飾りをつけて挨拶しあい、人民を治め諸侯とお会いすることができるのも、すべてこの文明を築いた禹王のおかげでございます。
子盍亦遠績禹功、而大庇民乎。
子なんぞまた遠く禹の功を績して、大いに民を庇わんや。
あなたさまもまた、遠大なる禹王のいさおしを引継ぎ、大いに人民を庇護しないということがございましょうか(、してくれますよね)。」
と続けて、
(現在の周王を頂点とする体制を護持する方針からお外れになりませんようにのう、ふおっほっほっほ・・・)
と暗に伝えるためだったのです。
これに対して、趙孟は
「わたくしはどんな罪を犯してしまうことになるのか、それが心配で遠大なことなどできるような状態ではございません。
吾儕偸食、朝不謀夕。何其長也。
吾が儕は偸食し、朝たに夕べを謀らず。何ぞそれ長をや。
わたくしどもは無駄飯を食わせていただいて生きる身、朝のうちにはその日の夕方がどうなっているかわからないレベルでございます。どうして長い先のことが謀れましょうか」
と答えたのでございました。
―――以上のこと、劉定公は帰って周王にご報告した。
王、
「ふほほ。趙孟はんは如何でおじゃったかな?」
劉、申し上げるに、
老将知而耄及之。
老まさに知らんとして耄これに及ぶ。
「老成して指導者として働こうという時に、もう耄碌しはじめた。
・・・という言い回し(「諺」)がございますが、趙孟さまはちょうどそのような感じでございましたなあ。日の昇る勢いの大晋国の閣僚(「正卿」)でありながら、
儕於隷人、朝不謀夕。棄神人矣。神怒民叛、何以能久。趙孟不復年矣。
隷人に儕し、朝たに夕べを謀らず。神・人を棄てるなり。神怒り民叛かば、何を以てよく久しからん。趙孟は復年せざらん。
使用人どもの仲間のように「朝のうちにはその日の夕方がどうなっているかわからない」というのでございますよ。これは神秘なものをも人民をも省みないことでございます。こんなことでは、神秘なものはお怒りになり、人民のくそどもは叛きましょう。長続きはいたしますまい。趙孟さまは、どうも来年を迎えるのはちょっと無理ではござりませぬかなあ・・・」
「さよか。来年を迎えるのは無理でおじゃるか」
「御意」
「ふ。・・・ふほほほほ、御意でおじゃる、とのう・・・」
劉定公の予言どおり、その年の十二月、庚戌の日、趙孟は温の地で卒した。
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「春秋左氏伝」では、予言は必ず的中します。的中した予言を言うたひとは賢者だから、賢者の言葉だけ集めているからだ、とか、成就した予言だけを記録しているのだ、とか説明がなされますが、「春秋左伝」という書は、「予言というものは必ず的中するのだ」ということを証明するための書なのではないか、という説があります。その説にしたがえば、「左氏伝」は、それが書かれているときに(あるいは編集され、発表されるときに)世の中に流れている(あるいは著者・編者の属するグループが自分たちで流しているのかも知れません)「予言」を成就させたいひとたちが書いた(編集した)のですよー、と言うのです。
すなわち、「左氏伝」に出てくるエピソードは、おはなしとしてはおもしろいのですが、歴史的事実ではない、ということです。
ちゅうごくの「歴史」はつねにその「歴史」を論じている時代の「政治」の言論に過ぎません、ということを思い知らされるなあ。我が国でも「たいてい」はそうなんだろうけど、向こうは「必ず」だからなあ。そんなひとたちとやりあっていることを自覚するなら、ちゃんと証拠のビデオを公開しなければ。しないと、(現政権は)復年せざらん。