平成22年10月21日(木)  目次へ  前回に戻る

今日は疲れた。アルコさまも飲まされた。頭痛いし、アルコさまを飲んで醒めた後は、いつもいつも病的にイヤになります。要するにウツ物質がたくさん出るんです。こんなにニンゲンがキライなのにどうしてニンゲンさまとの関係で苦しまなければならないのか。まわりがイヤなのと自己嫌悪とで○にたい。

そうだ、○のう。

さらば。

・・・と思ったのですが、

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ある日、玄宗皇帝はご兄弟のなにがし親王と象棋を指しておられた。お部屋では楽士の賀懐智が琵琶を抱え、心寛ぐ曲を弾じていた。

そこへ華やかな笑い声とともに、つい先だって康国(サマルカンド)から献上されてきた小さな猧(わ)を抱いて、楊貴妃さまがお部屋にお見えになられ、いたずらっぽいお顔で盤面を覗き見る。

「猧」(わ)というのは愛玩犬の「狆」(チュウ。ちん)のこと。なお、「狆」というのはいわゆる国字(日本で作られた漢字)である。

このとき、皇帝はかなり追い込まれておりました。

次の一手をどう指すか。

皇帝はちらりと貴妃の方をご覧になり、助言を求められた。貴妃はにこりとお笑いになり、

将康国猧子放之、令放局上乱其輸贏。

康国猧子を将いてこれを放ち、局上に放ちてその輸贏(ゆえい)を乱さしむ。

サマルカンドの「ちん」を盤上にお放しなられたのである。「ちん」は盤上を荒らして、勝ち負けをわからなくさせてしまった。

「輸」は「負け」、「贏」は「勝ち」の意。

「うほほほー」

上、甚悦焉。

上、はなはだ悦べり。

皇帝はたいへんお歓びになった。

ということである。

ち。放っておいても相手の親王さまがどうせ負けてくれたろうになあ・・・。楊貴妃のやろうは「でぶ」の癖に智慧が回りますからね。おそろしい女だ。

楊貴妃は「でぶ」であった。

貴妃素有肉体、至夏苦熱、常有肺渇。毎日含一玉魚児於口中。蓋藉其凉津沃肺也。

貴妃もと肉体あり、夏に至れば熱に苦しみ、常に肺渇あり。毎日、一玉魚児を口中に含む。けだし、その凉津を藉(か)りて肺を沃せしむるなり。

楊貴妃はたいへん肉づきがお宜しかったので、夏になると暑さのせいでいつも胸にかわきを訴えられた。そこで、毎日、玉で作られた小さな魚をお口にふふまれていたのである。玉の魚をお口に含んでおられると、冷たいお汁がお出になる。そのお汁を飲んで胸のかわきを潤されたわけである。

玉から「お汁」(原文「津」)が出るはずがないので、それは楊貴妃さまのお唾液であらせられたのでありましょう。

毎宿酒初消、多苦肺熱、嘗凌晨独遊後苑。

毎宿酒初めて消ゆるに、多く肺熱に苦しみ、かつて凌晨に独り後苑に遊ぶ。

いつも前夜のお酒が醒めるころになると、たいてい胸が熱くなってお苦しみなる。それで涼しい朝方におひとり、後宮の花園をお散歩なさる。

お散歩なさりながら、

傍花樹、以手攀枝、口吸花露、藉其露液潤於肺也。

花樹の傍らに手を以て枝を攀じ、口に花露を吸いて、その露液を藉(か)りて肺に潤せり。

花をつける木のお側に立ち止まり、おん手を以てその小枝をおよじりあそばして、花の一つにお口をお寄せになり、

ちゅ。

ちゅ。

ちゅう。

と花に下りたお露をお啜りして、胸の熱を冷ますのである。

また、

貴妃毎至夏月、常衣軽綃、使侍児交扇鼓風、猶不解其熱。

貴妃、夏月に至るごとに常に衣を軽綃にし、侍児をして扇を交して風を鼓せしむも、なおその熱を解せず。

貴妃さまは、夏の月になりますごとに、いつも軽くてお透けになったお服を召されたものでございます。そして、おつきの少女たちに扇を左右からあおがせて風を起こさせたが、それでもお暑そうであった。

ねっとりとお汗をおかきになるのである。

毎有汗出、紅膩而多香、或拭之於巾帕之上、其色如桃紅也。

汗の出づるあるごとに、紅膩にして多香、あるいはこれを拭うに巾帕(きんばつ)の上、その色、桃紅の如し。

汗をおかきになると、そのお肌は赤みがさしてねっとりとし、心地よい香りさえお持ちになる。

時に、汗をお拭いすると、そのハンカチには、桃のようなほんのりとした紅の色が映るのであった。

これはどういう病理なのでしょうかなあ。

風呂に入って火照った体がなよなよして自分だけでは立ち上がれないので、半裸の侍女たちに裸体を支えさせ、うすぎぬだけまとって皇帝の前に出てきやがったり、とにかく「でぶ」を長所にすりかえたおそろしい女であった。

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五代・王仁裕「開元天宝遺事」巻下より。王仁裕はどんな顔してこんなの書いてたんでしょうね。にやにやしてたか、はあはあしてたか、「けしからん」とコワい顔していたか、それを想像するだけで何となく生きていく希望湧いてきた。わしは訳しながらちょっと「はあはあ」してきた。

まあ、明日までにはまた何度も○にたくなるのだろう。もう時間の問題ではあるような気もいたしますのだが。

 

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