平成22年7月11日(日)  目次へ  前回に戻る

盈川県令をしていた楊炯というひとは、文章を綴るに長けていたが、その才を恃むこと強く、ひとにおごるところがあり、かえって用いられることがなかった。

このひと、職を失って都に戻ってきて、朝廷の官員たちを見るごとに

目為麒麟楦。

目して麒麟楦(きりん・けん)と為す。

「あれは「キリン法」というやつじゃな」と言っていた。

「麒麟」(キリン)は聖なる王の出現したときに世に現われる伝説のドウブツです。孔子が晩年に至って死んだ麒麟が捕獲されるという事件があり、現世では聖なる王の出現が絶望的であることを覚って、後世のひとに思想を伝えるべく「春秋」を著わすことにした、という「獲麟伝説」で有名です。

「楦」(ケン)は「楥」(ケン)の俗字とされ、説文に「法を履むなり」とあって、「法、方法」の意。

「なんスか、その麒麟楦(キリン法)というやつは」

と問うに、楊炯先生はトクトクと教えて曰く、

「おまえさんたちは上のひとたちのことばかり見ていて、シモジモのことをよく知らんからな。シモジモで音楽とともに戯(お芝居)を上演するとき、

仮弄麒麟者、刻画頭角、修飾皮毛、覆之驢上、巡場而走。

仮に麒麟を弄せんとする者は、頭角を刻画して皮毛を修飾し、これを驢上に覆いて巡場して走る。

聖なる獣・キリンを出場させるシナリオがあると、(小道具として)頭に角をつけた(お面を)刻み色を塗り、また皮に毛をつけて被り物を作り、(このお面と被り物を)ロバの上にかぶせて舞台の上をぐるぐる回らせるのじゃよ。

これを芝居の関係者の間では麒麟楦(キリン法)というのだ」

「へー、そうなんですか」

相槌を打ってやる。先生続けて曰く、

「しかしこのキリンは、

及脱皮褐、還是驢馬。

皮褐を脱ぐに及んで、またこれ驢馬なり。

被り物を脱がせると、またただのロバに戻るのである。

無徳而衣朱紫者、与驢覆麟皮何別矣。

徳無くして朱紫を衣にする者は、驢の麟皮に覆わると何の別あらん。

しかるべき能力も無く朱色や紫の高官の服を着ているやつらは、キリンの被り物をつけているロバとどこが違うのかね」

そう言うて先生は、「ひっひっひっひっひ・・・」と高笑いしたものであった。

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楊先生の負け惜しみにしか聞こえませんが、本日は参議院通常選挙でしたから、キリンの被り物を剥ぎ取られたお偉いさんも何人も出た・・・のかな? テレビ無いので詳しくはわかりません。

貴人多忘事。(貴人、忘事多し。) おえらい方は忘れっぽいものでございますからな。

と申します(「紅楼夢」第四回)ので、剥ぎ取られなかったお偉いさんの方は、すぐ忘れてしまわれるのでしょうがね。

上の楊先生のお話は「朝野僉載」(「太平広記」巻265所収)より。

「朝野僉載」という書物は、人肉を食うたり残虐な刑罰・拷問を加えたりオンナを縛り上げたり、のイヤになるような話が大量に集められている書物で、これをにやにやしながら読んでいる自分がほんとにイヤになってくる類の本として有名ですが、このようなオンナコドモにも読ませられるお話もあるのですよ。

 

(参考)

本日は西川口Heartsにおいて「山崎ハコ デビュー35周年記念ライブwith安田裕美」が催行されたので覗いて来ました。曲目は次のとおり。

1.望郷  2.織江の歌  3.稲の花  4.てっせん子守唄  5.リンゴ追分  6.ざんげの値打ちもない  7.エデンの東 (休憩) 8.呪い  9.きょうだい心中  10.ヨコハマ  11.横浜ホンキイトンクブルース  12.ビートル  13.気分を変えて  (アンコール曲)14.おらだのふるさと  15.会えないときでも

相変わらず?MCで何言っているのかよくわからんところもあるのですが、ハコさんにおける「紫色」の意味など、研究者としてはいくつか新しい知見も得ることができました。8.9、特に9がまさかナマで聴けるとは思いもしませんでした。封印しているという説もある曲の一つなので驚いた。大切な時間に立ち会っているように思えて、鳥肌立った。今日は声の調子悪かったみたいですが、もともとハスキー風味だから聴いている方はあんまり気になりませんでした。そして、いつものことながら安田裕美のギターの上手いこと。今日はいいもん聴かせてもらった。よし。またしばらく生きてみるか。と思って帰ってきたのでした。

 

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