いろいろと疲れますなあ。いつまでこんなことに付き合っていなければならんのか・・・。あんまりうるさいとこちらもまことの能力を出してしまうかも・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
明の時代、葛可久というひとは、すぐれた医術の持ち主であるといわれていたが、中年を過ぎても家貧しく、彼のまことの能力を知らぬ者たちからは庸医(大したことの無い医者、やぶ医)と目されていた。
あるとき、村里中の不良少年たちが可久に難癖をつけ、あわよくば金品を巻き上げようと考えて葛家にやってくると、その門前で「可久、往診を頼もうぞ」と大声で呼ばわった。
めんどうなので誰も相手をせずに放っておいたところ、
一少年従牖躍入室。
一少年、牖(ユウ)より室に躍入す。
一人の少年が壁の窗から室内に飛び込んできたのだった。
そして言うに
召可久診視不騐。
可久を召すも診視して騐(ケン)せず。
「騐」(ケン)は「験」(ケン)と同じ意で、「しるし」「ためし試みる」こと、ここでは「不験」すなわち、診察しても病気の「兆(しるし)」を見つけられないことを言う。
「可久よ、おまえさんを呼んで診てもらっても、どこが悪いのか言い当てられないだろうよ。」
窗の外から不良少年たちは、
群噪之。
これを群噪す。
みなでそのこと(「験せず」)を言いはやした。
しかし、可久は彼をじろりと見て、左右に首を振り、曰く、
腸已断矣。当立死耳。
腸すでに断てり。まさにたちどころに死すべきのみ。
「おまえはハラワタが切れてしまっておるぞ。手の施しようが無いわい」
「なんだとーー!」
と少年は可久に襲いかかろうとしたが、即座に腹を抑えてかがみこんでしまい、仲間に助けられて葛家を出て行ったが、家に帰る前に苦しみながら死んでしまったという。
・・・と、徐禎卿が書いている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
と、「元明事類鈔」巻十八に書いてあった。いつハラワタが切れてしまったのかわからない。いつ切れるかわからないというのは、おそろしいことである。