唐のころのことです。
西門季玄の家に良酒あり。
白酒(清酒)の中に
墨花
黒い花びら
が浮き上がるのだ。「花」は酒糟であろう。
斟於器中、花亦不散。
器中に斟すれども花また散ぜず。
酒器に移し替えても、その「花」は消えてしまわない。
「斟酌」する、の「斟」も「酌」もお酒を「勺」(ひしゃく)で「爵」(さかずき)に注ぐことをいう。うまく量を測って注いでさしあげねばならないので「斟酌」の語意になる。
なぜ爵に移し替えても消えない「花」が浮かぶかというと、酒を醸す樽の中に「肝石」というものが入れてあるからだ、という。
この酒を「二色酒」というたが、西門の家ではこの酒を秘酒とし、自家の宴席以外の場では出さないこととしていた。
そこへ崔道旅というひとがやってきて、この二色酒を求めた。
西門季玄が断ると、崔はその懐から
金貨、銀貨、銅銭
の三種の貨幣を出し、
以我三様銭買君二色酒、欲辞得乎。
我三様銭を以て君の二色酒を買わんとすなり、辞さんと欲するも得んや。
わたしは三つの様を呈した貨幣を以て、あなたの二色酒を買おうというのです。(一色多いのですから)だめだというわけにはいきますまい。
西門季玄は苦笑してこれを許したということである。
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後唐・馮贄「雲仙散録」より。「常新録」より引くという。
貨幣価値が何たらかんたら、と理屈を言いたくなってきました・・・が、今日は久しぶりで飲酒して眠いので寝ます。