(昨日の記事から続く)・・・では、その洪容斎先生はどんなことを書いているかといいますと、
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南海の地にはまことに蛇が多い。特に広州府はもっとも甚だしい。建炎年間(1127〜1130。南宋の最初の年号)のこと、某というひとが府知事であったとき、雄黄が蛇を防ぐと聞いて大量に買い求め、これを四つの袋に詰めて部屋の四隅につるしておいた。
雄黄(ゆうこう)は山の南側に生じる石で小塊を為し、漢方の薬品となる。鶏冠の色を呈するものが最も効果があるとされたそうである(「和漢三才図会」による)。
さて、一月ほどすると、天井からぽたりぽたりと
常有黒汁、従上滴下、臭且臊。
常に黒汁ありて上より下に滴り、臭にしてかつ臊(なまぐさ)し。
絶え間なく黒い液体が上から落ちてきて、これが臭く、なまぐさいのである。
「なんであろうか。おまえ、見てみよ」
と、ひとをして天井板の上を覗かせてみたところ、―――
いました。
巨蟒横其上死、腐矣。
巨蠎のその上に横たわりて死し、腐れり。
巨大なヘビが天井の上で横たわって死に、腐っていたのだった。
そこで、天井板や床板などすべて取り払わせた。すると、この巨大ヘビの死骸は一丈あまり(2メートルぐらい)あり、太さは柱のようであり、その傍らには
又得数十条。皆蟠糾成巣穴。
また数十条を得。みな蟠糾して巣穴を成す。
さらに数十匹の長いヤツらがいた。これらはみなわだかまり、お互いにからまりあい、巣穴のようにしていたのだ。
「うひゃあ、はやく追い出してしまえ」
さらにさらに
他屋内所駆放者合数百、或奇形異状。
他に屋内の駆放するところのもの、合わせて数百、あるいは奇形異状なり。
このほかにも部屋の上下から出てきて追い払われたものは全部で数百にも及んだ。そのヘビたちの中には異様な姿をしたものも多数おった。
「こ、こんなやつらと一緒に暮らしていたのか・・・」
府知事はあまりのことに熱を出して寝込んだが、
自是官舎為清。
これより官舎清たり。
この大掃除の後は官舎は清まった。
ので、一月ほどで病も癒え、任期を勤めることができた。
我が同郷のひと徐叔義がこの府知事の部下として赴任しており、彼がその目で自ら見たこととして教えてくれたことなのである。
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「夷堅志補」巻第四より。
こんな下らん・・・と思いましたが、よく考えてみるとこの記述は南海に赴任するひとにとってはたいへん参考になったに違いない。なにしろ知人が「親見」(自ら見た)ことであり、絵空言ではないわけですから、昨日の「雲仙散録」の記述のように浅妄の書ではないのである。