唐のころ。
賈傅という商人が揚州郊外の鏡湖のほとりに舟をつないだ夜のこと。
月が清々しい夜であったので、詩心のある賈は湖のほとりを散策していた。
縦歩于清水芳荷中、見二叟立語。
歩を清水の芳荷中にほしいままにするに、二叟の立語するを見る。
清らかな水に香高いハスの浮ぶあたりをそぞろ歩いていると、二人の老人が立ち話しているのと出会った。
賈が
「よい、月夜ですなあ」
と声をかけると、二人の老人も
「ほっほっほ、よい月」
「ふっふっふ、そしてよい夜、ですのう」
と挨拶を返した。
二人は、自ら「碧継翁」(青い空を繋ぐ老人)と「篁棲叟」(竹の林に住む老人)と名乗った。
二人と賈はしばらくともに詩を吟じたりしていたのだが、やがて賈は不思議なことに気がついた。
二人の老人、いつの間にかその背丈が延びており、賈が見上げるほど大きくなっていたのだ。
月の光さえ彼らの頭に隠れそうである。
・・・これはいかん。
賈遽叱之。
賈、遽かにこれを叱っす。
賈は、急ぎ「しっ」とまじないの声を発して二人の老人をしかりつけた。
すると、二人は、
化為白鷺飛去。
化して白鷺と為りて飛び去れり。
白い大きなサギに変化し、月光の下を飛び去って行ったのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
だからなんだったのかわかりませんが、これでおしまい。唐・劉Z(りゅうとう)「樹萱録」より。同書は既に散逸しているそうですが、このような何の役にも立たない話ばかり集めているのですから滅んで当然ですなあ。一部が「唐人百家」「五朝小説大観」「類説」などの筆記小説集に収録されて遺されているのみで、わたくしは「類説」巻十三所収のものを読んだのである。
今日は九州を出てきてからずっと行きたいと思っていた「室の八嶋」を見学しました。小関選手の実家として名高い佐野の「万里」でラーメン食った。美味かった。