平成22年2月6日(土)  目次へ  前回に戻る

ハラ減った。ので、食べ物の話でも致しましょう。ただし、変な食べ物の話です。

今日のお話は、こういう話がメシより好きなひともいますので、そんなひとのために書くものです。わたしの趣味ではないので念のため。

(以下、グロ注意)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「荘子」には大盗賊の盗跖がひとの肝臓をなますにして食いながら、孔子に会うお話が載っているが、それは寓言(作り話)であろう。

ところが、現実のニンゲンというのは寓話作者の考えるニンゲンよりもさらに奇態なものであるのだ。

@    隋の末に朱燦という群雄があった。盗賊の頭のようなものであったが、時は乱世であるから中々の勢威があった。

そして、このひとは人間の肉を食うという噂であった。

ある群雄から同盟のための使者がやってきて、宴会となった。

酔った使者はうわさになっている朱燦の人肉嗜好のことをからかって、

「どんなもんなんですかな、

噉酔人肉、如噉糟豘。

酔人の肉を噉(くら)うは、糟豘(そうとん)を噉(くら)うが如きか。

酔った人間の肉を食うと、粕漬けのブタ肉を食ったときのようなもんなのですかな?

いっひっひっひー」

と訊ねたのであった。

朱燦はその語を聞いても、にこにこ笑っているばかりであったが、さらに使者に酒を進め、使者が酔いつぶれると、

殺使者而食。

使者を殺して食う。

使者を殺して食ってしまった。

そして、

「つまり、こういう味でござる・・・、というても自分ではわかりますまいか」

と大笑いしたのであった。周囲に侍った側近たちも合わせて笑ったということだ。

A 次行きます。

五代の趙思綰(ちょう・しわん)は人間の、特に肝臓を食らうを好んだ。

あるとき、ひとを生きたままに卓上に縛りつけ、

面剖而膾之、膾尽、人猶未死。

面剖してこれを膾(かい)し、膾尽くるに、ひとなおいまだ死せず。

目の前で腹を割き、肝臓をそのまま薄切りのなますにさせて食べた。薄切りにして食べつくしたときには、まだそのひとはぴくぴくと生きていた。

生きて、趙の方を不思議な諦めと憐れみのようなものに溢れた目で見つめていたそうである。

あるいは酒を呑むときには、常に人間の胆臓をつまみにした。

そして、

呑此千枚、則胆無敵矣。

この千枚を呑まば、すなわち胆無敵ならん。

これを千個も食べたら、きもったまのでかい、無敵の人間になれそうじゃなあ。

と豪語して、大笑いしたのであった。

周囲に侍った側近たちももちろん追従して笑った・・・が、側近たちもなかなか緊張したものであったと思われます。

B さらに次にいきます。

契丹の東丹王・耶律突は本国で謀叛の画策が露見して宋国に亡命してきた。洛陽に居宅を賜って王族の待遇を以て暮らしていたが、

好吮人血。

人血を吮(す)うを好む。

人間の血を吸うことを好んだ。

血であればいい、というのではなく、人間の血でないとダメなのだそうである。

契丹にあったころは生人から血を絞り、殺すまで飲んでいた、ということであるが、宋に亡命してからは殺人を行うわけにもいかず、

嬖妾皆刺臂以供之。

嬖妾(へいしょう)みな臂を刺して以てこれに供す。

側室や侍女たちが、交代で腕を刺して血を流し、これを王に飲ませた。

これで我慢していたということである。

―――この三例を見ただけでも、

可見豺虎之性、非但異類、人亦有之。

豺・虎(さい・こ)の性を見るべきはただ異類のみにあらず、人またこれ有り。

やまいぬやトラのような残虐な性質というのは、けだものの世界にだけ見られるものではない。ニンゲンにもまたその性質があるのである。

ということがわかるであろう。

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と、明の半ばの于慎行というひとが「穀山筆麈」(こくさんひっしゅ)という随筆集の巻十五に書いています。

于慎行は字・可遠、またの字を無垢といい、嘉靖二十四年(1545)山東・東阿の生まれ、隆慶二年(1568)進士となり、閣僚である礼部尚書にまで至って萬暦十八年(1590)に致仕し、その後、家にあって読書と著述に晩年を過ごした。詩人としても有名である。その居館を「穀城山館」と名乗ったので、彼の文集を「穀城山館文集」、詩集を「穀城山館詩集」といい、それぞれ42巻、20巻あるそうです。萬暦三十五年(1608)に卒し、文定公と謚名された。

著述中では「読史漫録」とこの「穀山筆麈」が名高く、本書は明中期以前の朝廷・行政の諸事、人物、宗教などについて多くの史実を引いて考察したもので、特に役所の腐敗や人間の悪行を多数記録して倦むところが無い、といわれるとっても良い書である。

今回の三例を見ると、Bの東契丹王のはドラキュラ伯爵で有名ないわゆる嗜血症ですから、病気だから仕方ありません。@は酔ったときに殺した例しか書いてないので、Aのひとが一等賞でしょうか。

いずれにせよ真似してはいけません。

 

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