この世のどこかに、
崑崙層期国
という国があるそうです。
西南の海上にあり、大きな島につながっている。
そうです。
この国には、
常有大鵬飛。・・・@
常に大鵬の飛ぶあり。
日常的に、巨大な鳥が飛んでいる。
そうです。
その鳥の大いなること、
蔽日移晷。
日を蔽いて晷(キ)を移す。
「晷」(キ)は「日の影」で、日時計の針の影をさす。
その鳥が飛びすぎるとき、太陽は長い時間その鳥に隠れてしまうのである。ようやく飛びすぎて再び太陽が出てくるときには、日の影の方向が変わるぐらいの時間が経っている(ほどでかい)のだ。
そうです。
この国の原野には駱駝がいるが、この大鳥は駱駝を一飲みに呑みこんでしまうのである。
ともいうのです。日影が変わるほどの大きさからすると駱駝を呑みこむことは何だか「小さいこと」のように感じるが、すごいことである。
また、
有駱駝鶴。・・・A
駱駝鶴あり。
ラクダツルという鳥の一種がいる。
これは、
身項長六七尺、有翼能飛、但不高耳。
身、項長六七尺、翼ありてよく飛ぶ、ただし高からざるのみ。
その体型は、首の長さ2メートル前後、翼があって飛ぶことができる。ただし、あまり高くは飛べない。
そうです。
この鳥は、
食雑物炎火。
物に雑(まじ)えて炎火を食らう。
何かと一緒に火炎も食ってしまう。
というのでたいへん有名で(いわゆる「火喰鳥」ですね)、
或焼赤熟銅鉄与之食。
あるひと、赤熟せる銅鉄を焼きてこれに与うるに、食らう。
あるひとが、銅・鉄のたぐいの金属を熱してどろどろの赤い液状にしたのを食わせてみたところ、食った。
そうです。
この国の産物にはこのほか、
大象牙・犀角(大きな象牙と犀の角) ・・・B
野人(原住民) ・・・C
があるそうです。
野人は、
身如黒漆、拳髪、誘以食而擒之、動以千万、売為蕃奴。
身は黒漆のごとくして、拳髪、誘うに食を以てしてこれを擒(とら)うに、やや以て千万、売りて蕃奴となす。
体は黒い漆のように黒々とし、髪はちりちりである。食べ物を見せて誘い出し、そのまま拉致するのだが、ときには千人、万人も捕えられることがある。彼らは売られて、奴隷とされるのである。
そうです。
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周直夫「嶺外代答」巻三より。
この@〜Cのウソの中にも一つや二つぐらいは真実も含まれているのでしょうか。
とはいえむかしの東洋のひとの話だから非科学的で実証性は無く、近世の西洋人、たとえばレミュエル・ガリヴァ氏の著作のような信憑性は持てないでしょうなあ。ガリヴァ氏は自らの実際の見聞に基づいて、リリパット、ブロブディンナグ、ラピュタ、フウイヌム、日本などの記録を遺したのですから大したものですなあ。
なお、「崑崙」(コンロン)というのは、宋代の海洋地理ではカンボジア以西の国々をまとめていうのに使われるそうですが、この崑崙僧期国の「崑崙」は「コムル」すなわちマダガスカルの現地語名に比定すべきではないか、「僧期」はアフリカ東海岸を指す「ザンギ」(ザンジバルなど)のことではないか、とする説があります。(馮承志など)
そうです。