もうだめだがや。
(天津郊外の我が)村の張氏の家で、妻女が死んだ。
そこで、床を延べて死体を寝かせ、家人らがそれを取り巻いて泣いていたところ、
忽自掲衾起座悲啼。
忽ち自ら衾を掲げて起座し悲啼す。
突然、自分で掛け布団を跳ね上げて上体を起こして座り、悲しげな泣き声をあげはじめた。
家人は驚きつつも、生き返ったのだと思い、集まって口々に彼女に声をかけた。
しかし、
婦閉目無語、但有悲泣。
婦、目を閉ざし語無く、ただ悲泣あるのみ。
夫人は目を閉じたままで言葉を発することはなく、ただ悲しげな泣き声をあげているだけだ。
やがて
至夜乃僵。
夜に至りてすなわち僵(たお)る。
夜になると、また倒れ、息絶えた。
やはり死んだのだ。家人は交代で、枕元で夜通し泣いた。
ところが、
天明復座起悲啼。
天明、また座起して悲啼す。
夜が明けると、また上体を起こして悲しげな泣き声をあげはじめたのだ。
このようなことが何日も続いた。困ってしまった家族らは、死人に聞かれぬようにひそひそと相談して、
乗其僵時而殮焉。
その僵時に乗じて殮(おさ)む。
夫人が横になって(息絶えて)いる間に、棺の中に入れてしまった。
しかして夜になると
聞柩中声如牛鳴。
柩の中に声、牛の鳴く如きなるを聞く。
棺の中からは、牛の鳴き声のような声が聞こえてきたのだ。
家人らはまるでどんな小声であっても棺の中のそれに聞かれてしまうかのように、無言のままで目配せしあい、翌日の早いうちに、
急瘞之。
急にこれを瘞(うず)む。
大急ぎで棺を墓地に運んで、埋めてしまった。
それから親戚や知人に連絡をして、墓前で葬儀を執り行った。
これは邪しまなものが死体に憑りついたのであろうか。それとも実は呼吸が●●●●だけで●●●●●●●●のであろうか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
李酔茶先生「酔茶志怪」巻四より。