こういうのよくいる。↓

 

平成21年 5月17日(日)  目次へ  一昨日に戻る

天津郊外のわが村には、蔵経閣(図書館)がありましたのじゃ。

今より数十年前のある日、その蔵経閣の軒下の垂木に「子犬のようなもの」が蹲っているのが見られた。

「あれはなんじゃろう」

「はてはて・・・」

と言っているうちに多くのひとが集ってきた。

そのもの、ゆっくりと垂木の陰から明るいところに顔を出したのを見れば・・・、

おお。

大きな守宮(やもり)である。

蔵経閣の上には、鴿(はと)が何羽も止まっていたのだが、

物仰吸之、輙投于口。

物、仰いでこれを吸い、すなわち口に投ず。

そのもの、軒下から首を出して、ハト(に舌)を(巻きつけ)口の中に吸い込んでしまった。

そして、美味そうに、むしゃむしゃ、と口を動かし、最後に何か毬のようなモノを吐き出した。落ちてきたそれを見ると、守宮の唾液で丸められたハトの羽であった。

守宮は、さらに数羽のハトを同様に食らい、ようやく

果腹而去。

腹を果たして去らんとす。

ハラがいっぱいになったのであろう、また暗がりに消えて行こうとした。

と、

「おい、どけどけ」

とひとびとを掻き分けて、「好事者」(オモシロおかしいことを仕出かすのが好きなひと)が現われた。

「どかないと、これが火を噴くよーん」

と「好事者」が持ち出してきたのは火縄銃である。

好事者自下撃以火銃。

好事者、下より火銃を以て撃てり。

物好きのその人は、ひとびとを押しのけて軒下まで行くと、火縄銃の狙いを定め、地上から守宮を撃ったのである。

ダーン!

タマは狙い違わず巨大な守宮に当った!

と思ったのであるが、

物掉其尾、鉛丸不能中。

物、その尾を掉(ふる)い、鉛丸中るあたわず。

ヤモリは尻尾をぶるん、と振って銃弾を払いのけたのである。弾は跳ね飛ばされてしまい、ヤモリを傷つけることはできなかった。

「おお」

という群集の溜息が聞こえてきそうです。

この大ヤモリ、その後も何度か目撃されたが、やがて滅多に見られなくなり、

後不知所往。

後、往くところを知らず。

わたしが大人になったころには、どこかに行ってしまったのか、もうひとが見ることは無くなってしまった。

村はじまって以来の好事者といわれた李じいさん(これはわしの大叔父じゃった)も、とっくの昔にあの世に行ってしまわれた。

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李酔茶先生「酔茶志怪」巻三より。

 

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