こういうのよくいる。↓
天津郊外のわが村には、蔵経閣(図書館)がありましたのじゃ。
今より数十年前のある日、その蔵経閣の軒下の垂木に「子犬のようなもの」が蹲っているのが見られた。
「あれはなんじゃろう」
「はてはて・・・」
と言っているうちに多くのひとが集ってきた。
そのもの、ゆっくりと垂木の陰から明るいところに顔を出したのを見れば・・・、
おお。
大きな守宮(やもり)である。
蔵経閣の上には、鴿(はと)が何羽も止まっていたのだが、
物仰吸之、輙投于口。
物、仰いでこれを吸い、すなわち口に投ず。
そのもの、軒下から首を出して、ハト(に舌)を(巻きつけ)口の中に吸い込んでしまった。
そして、美味そうに、むしゃむしゃ、と口を動かし、最後に何か毬のようなモノを吐き出した。落ちてきたそれを見ると、守宮の唾液で丸められたハトの羽であった。
守宮は、さらに数羽のハトを同様に食らい、ようやく
果腹而去。
腹を果たして去らんとす。
ハラがいっぱいになったのであろう、また暗がりに消えて行こうとした。
と、
「おい、どけどけ」
とひとびとを掻き分けて、「好事者」(オモシロおかしいことを仕出かすのが好きなひと)が現われた。
「どかないと、これが火を噴くよーん」
と「好事者」が持ち出してきたのは火縄銃である。
好事者自下撃以火銃。
好事者、下より火銃を以て撃てり。
物好きのその人は、ひとびとを押しのけて軒下まで行くと、火縄銃の狙いを定め、地上から守宮を撃ったのである。
ダーン!
タマは狙い違わず巨大な守宮に当った!
と思ったのであるが、
物掉其尾、鉛丸不能中。
物、その尾を掉(ふる)い、鉛丸中るあたわず。
ヤモリは尻尾をぶるん、と振って銃弾を払いのけたのである。弾は跳ね飛ばされてしまい、ヤモリを傷つけることはできなかった。
「おお」
という群集の溜息が聞こえてきそうです。
この大ヤモリ、その後も何度か目撃されたが、やがて滅多に見られなくなり、
後不知所往。
後、往くところを知らず。
わたしが大人になったころには、どこかに行ってしまったのか、もうひとが見ることは無くなってしまった。
村はじまって以来の好事者といわれた李じいさん(これはわしの大叔父じゃった)も、とっくの昔にあの世に行ってしまわれた。
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李酔茶先生「酔茶志怪」巻三より。