うりうり。
昨日はひょうたんのお話をしましたので、今日は瓜のお話をしましょうなあ。ひっひっひっひ・・・。
これも天津郊外のことじゃが、張という富農が瓜畠を持っていて、傭いの者に管理させていた。
瓜の実る時節になったが、この年は全体に瓜の生りが悪かった。
ただし、中に、
独一畦枝柯茂盛、結一瓜、大倍于常。
ひとり一畦のみ枝柯茂盛し、一瓜を結ぶに、大いなること常に倍す。
一つの畝だけは茎や葉や蔓が繁茂し、そこに一つだけ生った瓜は、たいへん大きく、通常の二倍にもなった。
これが一番いい出来のようである。
張氏はこの瓜を近所の宿駅を管理する役人――亭長さんに献上した。「付け届け」ですね。
「おお、これはたいへんありがたい」
官喜、剖食、既破。
官喜び、剖食せんとして既に破る。
亭長は喜んで、食べようと皮を切った。
しかし、中からは果肉は出てこず、代わりに、
腥血流溢。
腥血流れ溢る。
なまぐさい血が飛び出し、あたりにあふれ出たのであった。
「うひゃあ」
びっくりしました。
当時の宿駅は地域の治安保持にも責任がある。亭長は簡単にいえば駐在さんの役も兼ねていた。
これはなんらかの事件が背景にあるのかも知れぬ、と考えた亭長は、
怪而招園主詢之、主莫解其故。
怪しみて園主を招きてこれに詢(と)うも、主もその故を解するなし。
怪しんで瓜園の主である張氏を呼んで質問してみたが、張氏も何故そんなことになっていたのか回答できなかった。
亭長は同役の者を伴って瓜畠を調べに行った。
この年の瓜畑は不生りであったので、ほとんどの畝は蔓も延びていなかったが、この瓜の生った畝だけは茎も蔓もよく繁茂していたから、すぐにわかった。
使人掘畦下、得尸、根自口中出。
ひとをして畦下を掘らしむるに、屍を得、根は口中より出ず。
下人に畝の下を掘らせてみたところ、そこから死体が発見された。瓜の根は、その死体の口の中から生えていたのである。
早速、畠を管理していた張氏の傭いの者を捕らえて尋問してみたところ、事実が判明した。
この春先にこの地を通った行商人が、咽喉が渇いたと言うので、傭いの者は昨年生った瓜を与えて食わせたのだそうである。ところが、このとき、傭いの者い間が差した。行商人の担っていた荷物(絹布であった)を己の物にしたい、という欲望が沸いてしまい、傭いの者は、
乗其不意、突以鉄鍤砍其脳、立斃。瘞屍畦下。
その不意に乗じて、鉄鍤(てつそう)を以て突きその脳を砍(かん)するに、立ちどころに斃(たお)る。屍を畦下に瘞(うず)めたり。
行商人が油断しているのに乗じて、(背後から)鉄のスキでその頭を叩き割って即死させた。その死体を畝の下に埋めていた。
のであった。「鍤」(ソウ)は「からすき」、要するにスコップである。
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昨日と同じく李酔茶先生の「酔茶志怪」巻二より。昨日のひょうたん話はホラばなしっぽいですが、こちらはリアリズム文学ですね。清の終わりごろにはかような悪いやつがたくさんいたのでしょうなあ。
ちなみに(今日のお話は「酔茶志怪」から直接引きましたが)、わたくし、この間、神保町の山●書店で「黄葉夕陽村舎詩」15万円を諦めてきたついでに200円で「明清案獄故事選」という本(1981華東政法学院語文教研室編)を入手してきたので、この手の話しをたくさん仕入れたよ。ひっひっひ。放火、惨殺、監禁、誘拐、折檻、私刑、虐待、拷問、親殺し、子殺し、夫殺し、妻殺し、奴婢殺し、無頼、顔役、略奪、詐欺、賄賂・・・オモシロいよー。