まだ水曜日。
今週はまだ、あと二日もある・・・。ぐすん。
・・・閑話休題。
わたし(注:肝冷斎にあらず、竹葉亭生・姚元之のことである)と同期の進士である徐星伯の教示によれば、彼の上司であった龍万育が陝西の視学官としてはじめて赴任したとき、
坐屋内、聞空中有飛声、院中適有擲地声。
屋内に坐するに、空中に飛声ありて、院中にたまたま擲地の声あるを聞く。
官舎の屋内に座っていたところ、「ばさばさ」と頭上の空の上を何かが飛んで行く音がし、ちょうどそのとき、「どすん」と官舎の中庭に何かが地面に落とされた音がしたのである。
「なんじゃ、なんじゃ」
と縁側に出て見てみると、
見地上堆一物、高幾二尺許、方円亦径尺許。
地上に堆する一物の、高さ二尺許(ばか)り、方円また径尺許(ばか)りなるを見る。
地面には、ピラミッド型にうず高く積もっている物が一つあった。その高さは五六十センチ、底部の直径は三十センチぐらいのものである。
どういうことか、
熱気尚蒸蒸騰上也。
熱気なお蒸蒸として騰上すなり。
それはぬくもりを持っており、むしむしと熱を持った水蒸気が立ち上っているのである。
「これは一体・・・」
と首をひねっていると、そこへ先任の同僚の某がやってきて、
「いやあ、またコレが出ましたか」
と笑って言うに、
頃見一大鳥飛過、遂有物擲地上。蓋所遺糞也。
頃(さき)に一大鳥の飛び過ぐるに、遂に物有りて地上に擲つを見る。けだし、遺すところの糞なり。
さきほど、空を巨大な鳥が一話飛びすぎて行きまして、ちょうどこの上空で地上に向けて何かを落としていくのが見えました。これは、きゃつが落として行った糞でござるよ。
とのことであった。
「そうなのですか」
さすがに陝西あたりまで来ると珍しいものがあるものだなあ、と感嘆した龍万育は、その後いろんなひとに聞いてみたが、とうとう
此鳥不知何名。
この鳥、何の名たるかを知らず。
この鳥の名前を知ることはできなかった。
そうである。
陝西に赴任した際、龍からそのことを教えてもらった徐星伯も、彼から教えてもらったわたしも、いろんな本に当たってみたが、まだこの鳥の名を知ることができないでいる。
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清・姚元之「竹葉亭雑記」巻八より。これはわたし(注:肝冷斎のことなり)の大好きな話です。夢があっていいではありませんか。わたしには実生活において夢が無いものですから、夢のあるお話は大好きなのさ。実生活に夢のあるみなさんはどう思われるか知りませんけどね。
ちなみに、ペルシアの「王の書」、ヘロドトスの「歴史」、アラビアン・ナイト、「荘子」等、洋の東西を問わず、多くの書に「巨大な鳥」のことが述べられている。この竹葉亭主人の書きとめているのも、その巨鳥伝説の一つ、ということになるのであろうが、この「巨鳥」はもともと一体何だったのであろうか。
@ この地球上には近い時代まで「恐竜」が生き残っていた、とも考えられるので、「翼龍」系のイキモノを見たひとの記録ではないか。
A 時空を超越するインスピレーション能力を持つ者(いわゆる「予言者」。例えばノストラダムス、黙示録のヨハネなど)がゲンダイの「飛行機」を幻視して、「巨大な鳥」のイメージを得たのではないか。
B 単なる想像。むかしのひとはオロカだから現実にはバカみたいなことばかり妄想していやがったのだ。ばーか、ばーか。
など諸説が考えられるので、「夢」のあるひとはいろいろ考えてみてください。わしはもう妄想するの飽きたし、「夢」が無いから考えるのやめておきます。あと二日も、砂を噛みながら休日を待たねばならないのだ。