唐の咸通年間(860〜874)のこと、荊州に「唐五経」(五経に通じた唐さん)とよばれる読書人があった。学識は精密にして博く、心栄えは高く、多くのひとの尊敬を得て、その弟子は五百人ともいわれ、(大地主や役人にならずとも)彼らの納める授業料で十分生活ができるほどであった。
このひとの有名な言葉に、次のようなものがあった。
不肖子弟有三変。
不肖の子弟に三変あり。
親不孝ものは三つの形態に進化していくものである。
@第一変為蝗蟲。
第一変は蝗蟲と為る。
第一段階では、イナゴになる。
謂鬻荘而食也。
荘を鬻ぎて食うを謂うなり。
イナゴは田畑を食い尽くす=父祖伝来の荘園を売り飛ばして食いつぶす。
A第二変為蠧魚。
第二変は蠧魚(とぎょ)と為る。
第二段階では、シミ(紙食い虫)になる。
謂鬻書而食也。
書を鬻ぎて食うを謂うなり。
シミは本を食い荒らす=父祖伝来の書画の類を売り飛ばして食いつぶす。
B第三変為大蟲。
第三変は大蟲と為る。
第三段階では「大きな蟲」=トラのこと=と為る。
売奴婢而食也。
奴婢を売りて食うなり。
トラは人間を食い破る=譜代の下男下女を売り飛ばして食いつぶす。
ああ。
三食之輩、何代無之。
三食の輩、いずれの代にかこれ無からん。
この「三食」のやからは、いずれの時代にいないことがあろうか(あらゆる時代にいる)。
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おお、カシコい方々よ、何かの諷刺ではございませんので悪しからず。林孟文「北夢瑣言」巻三より。