主簿(県の総務課長)の陳子直の妻には不思議な病(原文「異疾」)があった。
一ヶ月に一回、彼女の腹が膨れてくるのである。
毎腹脹、則腹中有声如撃鼓。
腹の脹(ふく)るるごとに、すなわち腹中声ありて鼓を撃つ如し。
ハラがふくれてくると、ハラの中に音がしはじめる。まるでハラの中で太鼓を打っているような音だ。
この音、だんだんと大きくなってくる。やがて、
遠聞于外、行人過門者皆疑其家作楽。
遠く外に聞こえ、行人の門を過ぐる者、みなその家楽を作すと疑う。
家の外にも聞こえるようになり、門前を過ぎるひとは、みな家の中で音楽を楽しんでいるのだ、と思うほどになる。
そのころになると、
腹消。
腹消ゆ。
ハラはようやく引っ込みはじめる。
ハラがもとに戻ると、
鼓声亦止。
鼓声また止む。
太鼓の(ような腹の中の)音もまた聞こえなくなるのであった。
何十人もの名医が診察したが、とうとうその病名も原因もわからないままであった。
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北宋のころの実話である、と陳正敏「遯斎閑覧」に出る(彭乗「続墨客揮犀」巻五所収)
「応声虫」とよく似た症状であるが、病名・原因がわからなかったのであるから、虫ではないのであろう。いずれにせよ明日は「応声虫」のことを話さずんば、ハラの虫がおさまらぬ。