南北朝時代の末(6世紀後半)、北斉という国がございました。
この国に仕えた李広は群書を博覧してこれを記憶すること万巻に及び、史書の編修に力を注いでおりました。
ところがある夜、夢を見た。
夢には、ひとりの男が出てきた。
自分と年格好も同じぐらいだが、灯火を背後にしているらしく、その顔はよく見えない。
彼が言うに、
我心神也。
われ、心神なり。
わしは、おまえさんの精神をつかさどる精霊だ。
――長いことおまえさんと一緒にやってきた。しかし、
君役我太苦。
君、我を役することはなはだ苦なり。
おまえさんはわしをあまりに苦労させすぎる。
――もうたまらぬ。
辞去。
辞去せんとす。
もうこれでお別れしたい。
そう言うて、その男の背後の灯火が消え、その男は闇に消えて行った・・・。
朝になり、そのような夢を見ていたことを人に話しているうちに、李広は突然めまいを感じると言い出し家人に床を延べさせたが、数日のうちに
卒。
卒す。
死にましたのじゃ。
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唐の李亢の「独異志」に出るお話でした(「太平広記」巻227所収)。
あまり精を込めて仕事するとキケンですよ。その間に親しい者が離れて行くらしい。