令和元年12月11日(水)  目次へ  前回に戻る

間もなくイノシシ年が終わって浪人になる遠い一族が頼ってきたが、「わしら本家のものは十二支に入れてもらっておりませんでぶでなあ」と世知辛いぶたとのだ。

まだ水曜日です。実際は隠棲しているので平日でも週末でも一緒ですが。

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近くの草庵に棲む隠棲仲間の坊主がやって来て、言うには、

「やられましたんじゃ」

と。

―――どうなすったんですかな。

と訊きますと、坊主は

「よく聞いてくだすった」

と歌いはじめた。

禅板圃団把将去。 禅板、圃団(ふとん)、把り将(も)ち去らる。

賊打草堂誰敢禁。 賊の草堂を打つこと、誰か敢て禁ぜん。

 座禅のとき寄りかかる板と、座布団を、持って行かれましたのじゃ。

 盗人めがわしの草ぶきの庵に入りおった。(だが、戸締りも何も無いのじゃから)誰にも防ぐことはできなかったのじゃ。

―――なんと、それは大変でしたなあ。

「まったくじゃ、けしからん」

終宵孤坐幽窗下、 終宵孤坐す幽窗の下、

疎雨蕭蕭苦竹林。 疎雨蕭々たり、苦竹の林に。

それで一晩中、ひとりさびしい窓の下に座って過ごしましたんじゃ。

ときおり雨が、苦竹(まだけ)の林にはらはらと落ちておりましたなあ。

―――現世は世知辛いですからなあ。今日はどうしておられたんですか。

「それがですなあ・・・」

今日乞食逢驟雨、 今日、乞食(こつじき)して驟雨に逢い

暫時回避古祠中。 暫時回避す、古祠の中。

 今日は今日で、乞食に出かけたらにわか雨が降ってきたんで、

 しばらく古いお堂の中で雨宿りをしていたんじゃ。

「じっと雨の音を聞いているうちに、わはははは」

可笑一嚢与一鉢、 笑うべし、一嚢と一鉢と、

生涯蕭灑破家風。 生涯蕭灑(しょうさい)として破家(はけ)の風あるを。

 実に可笑しくなってきましたわい、持っているのはどうせこの頭陀袋と乞食用の鉢一つ、

 わしの人生はきれいさっぱりと、破産したやつみたいな風情がありますので。

―――それはよいこころばえじゃ。だんだん悟ってきましたなあ。しかし、乞食の途中では腹が減りましたでしょう。

「そうなんじゃ。しかし雨が止んだあとは調子よく行きましてな」

十字街頭乞食罷、 十字街頭に乞食し罷(おわ)り、

八幡宮西正徘徊。 八幡宮西にまさに徘徊す。

 村のまん中の交差点のところで一通り乞食し終わって、

 鉢の中の物を食いながら、八幡様の西のあたりをふらふらしておった。

「すると・・・」

児童相見共相語、 児童相見て共に相語る、

去年痴僧今復来。 去年の痴僧いままた来たれり、と。

 ガキどもが目を合わせて、わいわい言い出した。

「去年のバカ坊主が、また来やがったぜ」と。

―――それでどうされたのじゃ。

「どうもこうも、それがのう・・・」

伝説では一緒に手毬をついたことになっているのですが、真実はどうであったのであろうか。

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「良寛詩集」より。真実も手毬をついたこと「も」あったんだと思いますが、遠巻きにして見ているだけ、とか、追いまわされたとか、オトナを呼びに行って村から追い出されたとか、の場合もあったと思います。隠逸者の生活はキビシイのである。明日はわしの草庵に盗人が入って、数帙の書物を奪っていくかも知れません。

 

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