平成31年2月20日(水)  目次へ  前回に戻る

炭水化物ライオンが食べるラーメンライスだ。たいへん栄養の調和したすばらしい食物であり、永遠に廃止されることはないであろう。

少し暖かくなってまいりました。洞穴の中でも一部のドウブツが冬眠から目覚めつつあるようだ。暖かくなるとアイスクリームやチョコレートが溶けはじめるので、早く食べてしまわなければいけません。

・・・・・・・・・・・・・・

「衆口金を爍(と)かす」というコトバがございます。熟語辞典を開きますと、「讒言によって信頼関係が壊れること」「讒言の恐ろしさをいう」と書いてあるので、「ああそうかなあ」と思うと思います。

ほんとにそうなのでしょうか。

・・・周の景王の二十四年(前521)のことでございますが、周の国で鐘を作りました。

伶人告龢。

伶人、龢(わ)せりと告ぐ。

楽師から、「音の調和がとれました」と報告があった。

「龢」(わ)は「和」の旧字。当時の鐘は一個だけ作るのでなく、大きさの違うものが何十個か作られ、これを叩くとそれぞれ違う音階が出るようになる「編鐘」です。鳴らしてみて、うまく調和のとれた音が出るセットが出来た、と言っているわけです。

そこで、景王は、鐘の製作に反対していた伶州鳩(れいしゅうきゅう)という人に言った、

鐘果龢矣。

鐘果たして龢せり。

「今度出来た鐘は調和したそうだ」

伶州鳩は言いました。

未可知。

いまだ知るべからざるなり。

「まだわかりません」

「どういうこっちゃ」

上作器、民備楽之、則為龢。今財亡民罷、莫不怨恨。臣不知其龢也。

上器を作り、民備(ことごと)くこれを楽しめば、すなわち龢(わ)と為すなり。今財亡び民罷(つか)れ、怨恨せざるなし。臣その龢せるを知らず。

王さまが(鐘という)道具を作った。人民がその音を聞いて、みんなで楽しむ―――それなら調和した、といえましょう。現状では(鐘を作るために銅を使い、労働力を投入したため)財物は失われ、人民は疲弊して、恨みに思っていない者はおりません。わたくしには、調和している、とは思えませんぞ」

「むむむ!」。

且民所曹好鮮其不済也。其所曹悪鮮其不廃也。故諺曰、衆心成城、衆口爍金。

かつ、民の曹(みな)好むところは、その済(な)らざること鮮(すくな)きなり。その曹(みな)悪むところは、その廃せられざること鮮きなり。故に諺に曰く、衆心城を成し、衆口金を爍(と)かす、と。

「それに、人民たちみんなが望むものは、たいてい成功しますが、人民たちみんなが望まないものは、たいてい廃止されてしまうものです。だから、いにしえからこういうではございませんか、

―――みんなが心を合わせることは、城のように堅固になる。みんなで批判することは、金属のようなものでも溶けてしまう。

と」

「むぐぐぐ!」

今三年之中而害金再興焉。懼一之廃也。

今三年の中に害なる金再び興れり。一の廃されんことを懼る。

景王はこの三年前(前518)に、宝物の銅を鋳つぶして銭貨を作りました。このときも人民の生活を破壊するだけだ、と伶州鳩は批判していたのですが、

「この三年間の間に、金属を使ってわざわいのもととなるものを二つも作られましたが、このうちの少なくとも一つは、やがて廃されてしまうことでしょう」

「うるさい!」

王は言った。

爾老耄矣。何知。

爾、老耄せり。何をか知らん。

「おまえはもう老いぼれてしまったようじゃ。時代の流れが理解できておらん!」

「・・・」

伶州鳩は退きさがった。―――

さて、

二十五年、王崩。鐘不龢。

二十五年、王崩ず。鐘、龢せざりき。

その翌年、王は亡くなった。(王が亡くなったあと、明らかになったのだが、)編鐘は調和していなかった。

楽師たちが、王におもねって、「調和した」という報告を上げていたのであった。

・・・・・・・・・・・・・・

「国語」巻三「周語下」より。そうか、「忖度案件」だったんですね。ところで、あれれ? 「衆口、金を爍す」は、「ひとびとがみんなダメだというものは結局ダメになりますよ」という意味で使われています。「衆口」はひとびとの正当な批判ということで、後世と違って「讒言」の恐ろしさをいうコトバではなかったんです。もしも引っ掛け問題が出るといけませんので、試験を受けるひとは注意が必要ですよー。

なお、今日は岡本全勝さんが洞穴の前まで来て本とか置いていってくれたようです。

 

次へ