カメは出たり入ったり便利だなあ。おいらたちは、入ってしまったらもう出てくる勇気は無いであろう。
職業生活も余暇生活も、もう手も足も出ないぐらいです。カメ人間なのだ。
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あるとき、ブッダはコータンミ国のクシラ園におられまして、その時に比丘(出家者)たちに告げたこと―――
過去世時。
過去世の時。
むかしむかしのことである。
「ほう」「なんと」「それで?」(←これは諸比丘(出家者たち)のコトバです。合いの手みたいなものだと思って無視してください。)
有河中草有亀於中住止。時有野干飢行覓食、遥見亀虫、疾来捉取。
河中の草に、亀の中に住止する有ること有り。時に、野干(やかん)の飢行して食を覓むる有りて、遥かに亀虫を見、疾やかに来たりて捉取せんとす。
とある川べりの草の中にカメが止まっていたことがあった。腹を減らしたジャッカルが食べ物を探していて、遠くからこのカメを発見し、すごいスピードでやってきて、カメを捕まえようとした。
「亀虫」はカメムシではありません。「虫」は爬虫類や両生類など広い範囲の生物を指すコトバです。したがって「亀虫」は「亀」と同じく、カメのことです。
「もそもそ」
亀虫見来即便蔵六。
亀虫来たるを見てすなわち六を蔵す。
カメはジャッカルが来たのを見て、大急ぎで頭・尾・両手両足の合わせて六つを甲羅の中に引っ込めたのである。
「ほう」「なんと」「それで?」
野干守伺冀出頭足、欲取食之。久守亀虫永不出頭、亦不出足。野干飢乏瞋恚而去。
野干、守伺いて頭足を出だすことを冀(ねが)い、取りてこれを食わんとす。久しく亀虫を守るも永く頭を出ださず。野干飢乏し瞋恚して去れり。
ジャッカルはカメが頭か足でも出すのではないか、そうしたらをこを捕らえて食べよう、と期待して、じっとカメを見張っていた。だが、いつまで見張っていてもカメは頭を出してこない。(もうすぐ出すかもうすぐ出すかと思って見張っていたが、)ジャッカルの方も腹が減ってたまらなくなり、怒り狂いながら(別の獲物を探して)去って行った。
「ほう」「なんと」「わしらも腹減ってきたのう」
ところで、もろもろの比丘どもよ。
汝等今日亦復如是。
汝ら、今日、またかくの如かりき。
おまえたちは、この今の瞬間、このカメと同じ状態なのじゃぞ!
「ほう」「なんとわれらはカメ人間!」「それで?」
知魔波旬常伺汝便冀汝眼著於色。
魔波旬(まはじゅん)常に汝を伺い、汝の眼を色に著せるを冀うを知れ。
「魔波旬」は「魔なるハジュン」、修行者の修行を邪魔する魔物です。
魔物ハジュンたちはいつもおまえたちの行動を見張っており、おまえたちが目で美しい物体を見てしまうその時を期待しているのを知らなければならない。
「ええー!」「なんと」「これはまた驚いた」
目が物体を見るだけでなく、耳が音を聞き、鼻が香をかぎ、舌が味わい、体が何かに触れ、思いが何かを念じ、何らかの生きることによる汚れが現れるのを待っているのだ。
是故比丘、汝等常当執持眼律儀住。
この故に比丘よ、なんじら、常にまさに眼律儀を持して住せよ。
というわけなんで、出家者たちよ、おまえたちは常に、眼の動きを制御する決まりを守って暮らさねばならないのだ。
そのほか、耳や鼻や舌や体や思いも同様の制御する決まりがあるんで、それは守ってください。
猶如亀虫野干不得其便。
なお亀虫の野干にその便を得ざらしむるが如きなり。
カメが(頭も尾も両手両足も引っ込めて)ジャッカルにやりたいようにやらせなかったのと同じようにしてくださいねー。
以上、ブッダのお話であった。カメ人間化の推奨です。
爾時世尊即説偈言。
爾(そ)の時、世尊、即ち偈を説きて言えり。
それから、世に尊ばれるそのお方(ブッダ)は、すぐに「詩」の形式で教えを説いて、次のようにおっしゃった。
亀虫畏野干、 亀虫、野干を畏れ、
蔵六於殻内。 六を殻内に蔵したり。
カメはジャッカルをコワがって、
頭と尾と両手両足を甲羅の中に引っ込めた。
同様に、
比丘善摂心、 比丘、善く心を摂(おさ)め、
密蔵諸覚想。 もろもろの覚想を密蔵せよ。
出家者のみなさんはうまく心を制御して、
いろんな知覚とか想念を持たないようにしてください。
不依不怖彼、 彼に依らず怖れず、
覆心勿言説。 心を覆いて言説するなかれ。
知覚や想念に依存することも、それらを恐怖することもなく、
心を外界から覆い隠して、コトバにしてはならない。
「ほう」「なんと」「なるほどなあ」
このように、
仏説此経、已諸比丘聞仏所説歓喜奉行。
仏のこの経を説きたまうに、已に諸比丘、仏の説くところを聞きて、歓喜して奉行せり。
ブッダがこの教えを御説法くだされたので、たくさんの出家者たちはブッダの教えを聞くことができ、すっごい喜んでその教えのとおりに行動し奉ったんじゃ。
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「雑阿含経」巻四十三より。わーい、よかったですねー。比丘たちはみんな喜んでカメ人間になっていったんだなあ。おいらもカメみたいに甲羅が欲しいところである。