明日への不安や今日の不満を忘れるために、毎日大量にモノを食べざるを得ない、というひともいるのである。ツラいことである。
なんとか二日目終わりました。明日はもう会社に行く力(体力・気力・人格力など)ないなあ・・・。
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三国の呉の将軍・諸葛恪が淮南遠征から帰ってきて、
将朝会、犬銜引其衣。
まさに朝会せんとするに、犬、その衣を銜(くわ)え引く。
宮中での宴会に出かけようとしたとき、飼っているイヌが恪の衣の裾を咥えて引っ張った。
「どうした、どうした」
恪曰、犬不欲我行乎。還坐。
恪曰く、「犬、我の行くを欲せざるか」と。還りて坐す。
恪は、「イヌのやつはどうもわしが出かけるのをいやがっているようじゃなあ」と言って、部屋に戻って座った。
しばらくしてまた立ち上がって出かけようとすると、
犬又銜衣。
犬、また衣を銜う。
イヌはまた衣を咥えた。
「これこれ、朝廷での宴会に遅刻してしまうではないか。今日はわしの遠征帰りの祝賀会じゃから、遅れるわけにはいかんのじゃ」
乃令逐犬、遂升車。
すなわち犬を逐わしめて、遂に車に升る。
そこで、イヌを追い払わせて、とうとう馬車に乗って出かけていった。
―――恪が出かけて数刻したころ。
恪の妻が部屋の中で、侍女の方を振り向いて、突然訊ねた。
汝、何故血臭。
なんじ、何の故ぞ血臭せる。
「おまえ、どうしてそんなに血の匂いがするのだね?」
侍女は首をかしげて答えた。
不也。
せざるなり。
「そんなことはございませんわ」
しかし、
有頃愈劇。
有頃、いよいよ劇(はげ)し。
時間が経つとどんどん臭いがひどくなってくる。
「おまえ、どうし・・・」
とまた侍女の方を振り向いて、そこで恪の妻はその様子がおかしいので、驚いて言った。
汝、眼目視瞻、何以不常。
汝、眼目視瞻すること、何を以て常ならざる。
「お、おまえ、どうして普段と違った目つきをしているのだね?」
侍女は目を見開いて、まるで心の無いもののように一心に恪の妻の方を見つめていたが、やがて突然、白目を剥くと、
厥然起躍、頭至于棟、攘臂切歯而曰、諸葛公乃為孫峻所殺。
厥然として起躍し、頭棟に至りて、臂を攘い切歯して曰く、「諸葛公、すなわち孫峻の殺すところと為れり」と。
ぴょうん、と突然飛び上がった。信じられない跳躍力で、頭は建物の棟木にまで届いた。侍女は何度も飛び上がり、腕を振り回し、歯ぎしりしながら言った。
「ギギギ―――、諸葛公はいま、孫峻らに殺されなすったあ―――!」
ちょうどその瞬間、諸葛恪は、呉帝が宴席に忍ばせた兵士らによって、誅殺されていたのであった。
侍女はなおもぴょんぴょんと飛び上がって、棟木に頭をぶつけて血だらけになり、諸葛恪の家中が大騒ぎしている間に、
吏兵尋至。
吏兵ついで至れり。
帝の派遣した兵士らがやってきた。
・・・諸葛一族はその場でことごとく殺されてしまい、夜にはイヌの鳴く声が聞こえるばかりであったという。
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晋・干宝「捜神記」巻十五より。諸葛恪も出かけなければよかったんです。おいらも明日はイヌに引っ張ってもらおうかなあー。イヌ飼ってないけど。