平成29年12月10日(日)  目次へ  前回に戻る

毎日食べ物があるありがたさよ。

さっき週末になったばかりだと思ったのに、もう明日は月曜日。ツラいなあ。

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明の時代のお話をさせていただきます。

劉福なる者は蘇州の庶民で、石塔営の西に住んでいた。

貧甚、恒称貸、負薪以給日、日所嬴帰貸主、満一券、則易券復貸。

貧甚だしく、常に称貸し、薪を負うて以て日に給して日に嬴(かせ)ぐところを貸主に帰し、一券を満たしてすなわち券を易えてまた貸す。

たいへん貧乏で、いつも借金をし、薪運びの日傭いをして、毎日の日当を前借している貸主に返して、これまでの借用書を返し終わるとまた借用書を作って前借する、という暮らしであった。

ツラいですね。

一日、貸券満、劉病作、力疾齎券復往貸。

一日、貸券満ち、劉、病い作(おこ)るも、力疾して券を齎し、また往貸せんとす。

ある日、借用書の期限が来た。このとき、劉は病気になっていたが、ムリにシゴトをしてなんとか借用分を返し、また前借しようとした。

ところが、

貸主羅洪然慮劉以病費所貸銭、無所取償也、遂拒。

貸主・羅洪然、劉の病いを以て貸すところの銭を費やし、償いて取るところ無きを慮りて遂に拒む。

金貸の羅洪然は、劉が病気の間に貸した金を使ってしまって(働けないので)、貸した金が戻って来ないことを予想して、前貸しを拒否したのであった。

「うぬぬ」

劉憤恨、劇病死。

劉、憤恨して、病を劇して死す。

劉は恨みが噴き出し、病気が突然重篤になって死んでしまった。

貧乏だったので劉には妻子はいませんでしたが、おやじがいた。

劉のおやじは郊外の農家に馬の世話係で雇われていたのだが、

貧無葬地、火其屍。

貧にして葬地無く、その屍を火す。

貧乏で墓地など無いので、劉を燃やして灰にした。

粗末であっても棺に入れて土葬してもらうのがニンゲンとしての最後の希望である社会において、これはツラい処遇であった。

さて、それから三日ほどした日の晩―――

「だんなが石塔のあたりで倒れていなさったぜ」

と気を失った羅洪然が家に運び込まれてきた。

寝かせようとすると、突然、

双目直視。

双目直視せり。

両目をかっと開いて前方を見つめた。

そして「ぴょん」と立ち上がると、

以拳撃牆、若相搏状、指爪流血、曰、吝三百文不貸、致我死。何忍也。

拳を以て牀を撃ち、相搏つがごとき状(さま)にして、指爪流血し、曰く「三百文を吝みて貸さず、我を死に致す。何ぞ忍びんや」と。

拳を固めて柱を殴りつけ、今度は殴りつけられたように倒れ、また起き上がって柱を殴りつけ、互いに殴り合っている様子で、手の指や爪からは血が流れた。と、突然、(普段とは違った声色で)、

「たった三百文を惜しんで貸さずに、おれを死なせたのだ。どうしてガマンができるものか」

と言い出した。

それで、家族たちは、劉が憑りついているのだ、と知って、(羅にとりついた)劉に土下座し、

焚以楮幣、祀以牲牢、終不釈。

焚くに楮幣を以てし、祀るに牲牢を以てするも、ついに釈かず。

紙銭を焼いて捧げ、肉を献じて祀ってみたが、憑りついたままであった。

それほど恨みが深かったのである。

深夜になって、(羅にとりついた)劉がふと、言い出した。

喚吾父来、厚贈之。

吾が父を喚び来たりて、厚くこれに贈れ。

「おれのおやじを呼んできて、たんまり贈り物をしてくれんかな」

そこで、羅の家族ははらばうように飛んで行って拝み倒し、

強其父往、以青蚨千輩為饋、羅忽醒。

その父を強いて往かしめ、青蚨(せいふ)千輩を以て饋と為すに、羅忽ち醒めたり。

「青蚨」というのは、銭が青い羽虫になって飛んだ、という古い伝承をもとにしてできたコトバで、「銅銭」のことです。

劉のおやじを無理やりに連れてきて、銅銭を何千枚も贈り物にしたところ、羅は突然、正気に戻ったのであった。

・・・・以上、実際に起こったことだったのである。

嗟夫。若劉者、可謂孝矣。既死、猶顧其親。

嗟夫(さふ)。劉のごとき者は孝というべきなり。既に死するに、なおその親を顧る。

ああ。劉のような者は、孝行者というべきであろう。もう死んでしまった、というのに、それでもその親の世話を見たのである。

世之有親而不肯顧者、愧於劉多矣。

世の親有りて顧みるを肯んぜざる者は、劉に愧ずること、多きかな。

世間には、親がいるのに世話を見ようとしない者がいるが、彼らは劉に対して恥ずべきことが多いであろう。

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明・劉忭等「続耳譚」巻三より。おいらも明日、ムリに働きに行って前借分を稼いで来ないといけないんですが、病気だと言って休んだらもう貸してくれないのかなあ。資本主義のツラいところである。なお、資本主義であっても、親孝行はしないといけませんよ。

 

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