腹を減らしたままにさせておくのは、危険である。
うわーい。また明日から平日。もう耐えられないので、そろそろ遠いところに亡命しようかなあ。
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戦国の時代、斉の国の大夫・管燕は斉王のお怒りを買ってしまった。
「もうダメだ。もう斉の国には居れぬ・・・」
蒼い顔をして帰宅した管燕は、左右の食客たちに向かって、
子孰而与我赴諸侯乎。
子の孰れか、我とともに諸侯に赴かんや。
「先生方の中でどなたが、わたしと一緒に他の国に亡命してくれますかな」
と訊ねた。
左右黙然莫対。
左右黙然として対するなし。
左右の食客たちは顔を見合わせただけで、黙ったまま誰も答えなかった。
「ああ!」
管燕は、
連然流涕曰、悲夫、士何其易得而難用也。
連然として流涕して曰く、「悲しいかな、士なんぞそれ得やすくして用いがたきかな」と。
なみだを流して泣きくずれていう、
「なんと悲しいことではないか。立派な先生方はたやすく集まってきてくださるのに、何かをお願いしようとすると、たいへんお難しい方々であったとは」
食客はみな黙ったままだったのですが、その中に、かつて魏王に仕えていた田需というひとがいまして、この人が
「わはははは」
と笑い、にこやかに言った。
士三食不得厭、君鵞鶩而有余食。下宮糅羅紈曳綺縠、而士不得以爲縁。
士は三食厭くるを得ざるに、君が鵞・鶩にして余食有り。下宮羅紈を糅し綺縠(きこく)を曳くに、士は以て縁を為すを得ず。
「食客たちが三度のメシで腹いっぱいになっていないのに、あなたの飼うガチョウやアヒルはエサを残しておりました(というぐらいエサをもらっていた)。あなたの女中たちがうすぎぬや絹をまじえた服を着、あやぎぬや刺繍入りの紗やらを引き摺っているときに、食客たちの服にはふちどりもなかったのですぞ」
「むむむ・・・」
且財者、君之所軽、死者、士之所重。君不肯以所軽与士、而責士以所重事君、非士易得而難用也。
かつ、財なるものは君の軽んずるところ、死なるものは士の重んずるところなり。君、軽んずるところを以て士に与うるを肯んじずして、士の重んずるところを以て君に事(つか)うるを責む、士の得やすくして用いがたきにあらざるなり。
「それに、人の主君たるもの、財物を大切にしてはいけません。もちろん食客たちは命がけでお仕えするのですから、命の捨て場所はたいへん重要なことです。主君として大切にしてはいけない財物を食客たちに与えるのに積極的にならずに、食客たちにとって重要な命をかけて自分に仕えろ、とおっしゃるのですから、「食客たちがたやすく集まってくるが、何かをさせようとするのは難しい」などという言い方は当たりますまいなあ」
「むむむ・・・」
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「戦国策」斉上・宣王篇より。残念ながら菅燕がその後結局どうなってしまったかは書かれていません。シアワセになれてればいいんだけどなあ。
結論としては、三度のメシは腹いっぱい食わせないといけない、ということである。おいらもあんまり腹減るようなら亡命してしまおうかなあ。