ニワトリに批判されて去りゆく赤とんぼ。秋も終わりである。「思ひ入る身は深草の秋の露頼めし末やこがらしの風」(新古今・恋五 家隆朝臣)
寒くなってきました。秋はツラい。
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しかしツラいのはニンゲンだけではない。ドウブツの仲間もツラいのです。
蟻無秋衣雁無裘。 蟻に秋衣無く、雁に裘無し。
霜天謀食各自愁。 霜天に食を謀りて各自に愁う。
アリには秋の服がありません。雁には毛皮の服がありません。
霜降る季節の空の下、食べ物を求めてみんな苦労しているのだ。
だんだん寒くなって、さらに食い物が無くなってきました。もうダメだ。
雁声寒死叫不歇、 雁の声は寒死せんとして叫びて歇(や)めず、
蟻膝凍僵行復休。 蟻の膝は凍僵して行くもまた休(や)みぬ。
雁は寒さに死にかけてきたのを訴えて、声を限りに鳴いてとどまるところがない。
アリは足が凍えてかちかちになってしまったらしく、歩きはじめてもすぐに動かなくなる。
「はあ・・・」
誠斎先生は、書斎でひとりため息をついた。
腹が減ると弱ってくるのは、われら生き物の習いである。
先生苦吟日色晩、 先生苦吟するに日色晩(おそ)く、
老鈴来催喫朝飯。 老鈴来たりて催す、朝飯を喫せよ、と。
先生がツラい詩を作って口ずさんでいるうちに、日はだんだんと傾いてきたのだが、
ようやく老いた従者がやってきて、「今日の最初の飯が出来ましただ。早く食べましょう」と誘いにきた。
「うむ・・・」
腹が減って動きづらいのだがやっとこさ立ち上がり、食堂に向かう。
童子にも「早く飯を食いに来い」と呼びかけた。しかし、
小児誦書呼不来、 小児書を誦して呼べども来たらず、
案頭冷却黄虀麺。 案頭に冷却す、黄虀(こうせい)麺。
童子は本を読んでいて呼んでもなかなかやってこない。
卓上では黄色い野草を具にしたうどんが、冷めていく。
どうせマンガでも読んでいるのであろう。だいたいハラを減らしてない、というのはどこかで昼間食い物をもらったのではなかろうか。
怪しからん。だが、腹が減って、ひっぱって連れてくる元気も無いんです。
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宋・誠斎・楊万里「苦吟」。こんな詩を読んでいるうちに夜中になってしまい、おいらも腹が減ってきたでぶー。孤独は枕を抱けば癒され、寒さは新聞紙を着れば防げるが、空腹はたやすくはおさまらないのである。