秋である。明日は11月。ハロウィーン?なんですかそれは。
もみじしてきたなあ。
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もみじを見上げながら、修行僧のおいらが五台山を昇っていきますと、山道に汚い坊主が一人出てきたぞ。
この坊主、手には「叉」(サ。先が二股になった棒)を持っていて、突然礼拝してきた。
「ど、どうも・・・」
と礼拝を返したところ、手に持った叉を下げた首に引っ掛けてきたぞ!
「な、なにをするんですか!?」
驚いているおいらに、汚い坊主は言った。
那个魔魅教汝出家、那个魔魅教汝行脚。道得也叉下死、道不得也叉下死。速道、速道。
那(な)んの魔魅か汝を出家せしめ、那んの魔魅か汝を行脚せしむ。道(い)い得ればまた叉下に死し、道い得ざるもまた叉下に死す。速やかに道え、速やかに道え。
「どういう魔物がおまえさんを出家に追い込んだのだ? どういう魔物がおまえさんを旅に出るまで追い込んだのだ? 答えられれば、この棒にやられて死ぬだろうし、答えられなくてもこの棒にやられて死ぬのである。さあ、はやく答えろ。はやく答えろ」
な、なんですか、このひとは? ハロウィーンの子どもたちなら「いたずらか、お菓子か?」と言うはずだが、このひとは答えても答えられなくても死ぬと言っているぞ。どう答えればいいのか!
このひとは、五台山の秘魔岩和尚というひとで、九世紀前半、永泰霊湍禅師の弟子、実在の人物である。
学徒鮮有対者。
学徒対有る者鮮(すくな)し。
五台山に学びに来た僧侶で、答えられた者はほとんどいなかった。
というのですから、答えられなくても死ななかったみたいです。
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「五灯会元」巻四より。実はみなさんいつかは死ぬので、「答えられても答えられなくても死ぬ」というのは正しいんです。それなのに出家したり行脚したりして、何を求めているのかな?
なお、「五灯会元」には三つの「回答例」が載せられております。
(1)秘魔岩和尚より百年後、五代の名僧・法眼文益の答え。
乞命。
命を乞う。
「お助けくだされ!」
(2)法眼の少し後輩に当たる、宋初の僧・法燈泰欽の答え。
但引頸示之。
ただ頸を引きてこれに示す。
何も言わずに、首を伸ばしてお見せする。
(3)宋代のひとだと思いますがどういう人かわからない玄覚和尚の答え。
老児家、放下叉子得也。
老児家、叉子を放下し得るなり。
「じじいめ、その棒を手放すこともできるのだぞ」
どのひともどんな魔物に追われてきたのか、質問にはまったく答えていないぞ。