ニンゲンは安穏と毎日暮らしているが、ドウブツたちは無表情に見えても毎日毎日が無常の日々であることを知っているものである。どうせなら土日のうちに・・・!
みん・・・みん・・・。じ・・・じ・・・じ・・・。
おいらはセミのみんみんまる。だいぶん弱ってまいりました。
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おシャカさまは、ある日、五人の天王(天界の王者)に、「随色摩尼珠」(色のどんどん変わる宝珠)をお見せになりまして、お訊きになった。
此珠而作何色。
この珠にして何の色を作すや。
―――このタマ、何色に見えますか?
天王たちは
互説異色。
互いに異色を説けり。
それぞれ、(赤とか青とか黄色とか、自分に見えた)違う色で答えた。
―――そうですか。
おシャカさまは、
復蔵珠入袖、却擡手曰、此珠作何色。
また珠を蔵して袖に入れ、却って手を擡(もた)げて曰く、「この珠、何色を作すや」と。
そのタマをふところに入れなおして、それから手を出して来て、そのてのひらを見せ、
―――では、このタマは、何色に見えますか?
天王たちは答えました、
仏手中無珠、何処有色。
仏手中に珠無し、何の処にか色有らん。
「ぶー。ほとけさまのお手には今はタマはございません。タマが無いのに、どこに色がございましょうか」
―――ああ。
おシャカさまはお嘆きになられて言いました、
汝何迷倒之甚。吾将世珠示之、便各彊説有青黄赤白色。吾将真珠示之、便総不知。
なんじ、何ぞ迷倒することの甚だしき。吾、世珠を将いてこれを示すに、すなわちおのおの青黄赤白の色を彊説せり。吾、真珠を将いてこれを示すに、すなわちすべて知らずとす。
―――あなたがたは、どうしてそんなに迷い、ひっくり返ってしまっているのですか。わたしが先ほど、現世のタマを手にして見せたときには、みなさん「青だ」「黄色だ」「赤だ」「白だ」と、それぞれ自分に見えた色を強く主張していたではありませんか。なのに、わたしがいま真実のタマを手にして見せたら、みんな答えようとしないとはなあ。
なんかイジワル先生みたいだぞー。
と思いきや、
「なるほど!」
時五方天王悉皆悟通。
時に五方天王、ことごとくみな悟通せり。
この瞬間、五人の天王は、全員悟りに通じることができたのであった。
うわーい、いいなー。そうか、目に見える世界は虚構だったんですよ。そして、真実はそうでないところにちゃんと「ある」んですよ。みんみん。
またある時、おシャカさまはギーバ天が音の響きを聞き分ける能力を持っている、と聞いて、一緒に連れだって
至一塚間。
一塚の間に至る。
お墓に行ったんだそうです。
見五髑髏、乃敲一髑髏、問耆婆、此生何処。
五髑髏を見、すなわち一髑髏を敲きて、耆婆に問う、「これ何の処に生ぜしか」。
そこには五つのドクロが転がっていた。おシャカさまはそのうちに一つを棒で「ぽこんぽこん」とお叩きになりまして、ギーバに問うた、
―――こいつはどこに輪廻したのでしょうね?
ギーバはその音を聞いて、答えた。
此生人道。
これ、人道に生じたり。
「こいつは、どこかにニンゲンとして生まれ変わりました」
おシャカさまは次に、
又敲一曰、此生何処。
また、一を敲きて曰く、「これ何の処に生ぜしか」。
また次の一個を「ぴこんぴこん」とお叩きになりまして、言われた。
―――こいつはどこに輪廻したのでしょうね?
此生天道。
これ、天道に生じたり。
「この方は、天界のどこかに生まれ変わっておられます」
おシャカさまはまたもう一つを「ぺふんぺふん」と叩いて言われた。
此何生処。
これ、何の処に生ぜしか。
―――それでは、こいつはどこに輪廻したんでしょうかね?
「こいつは・・・、・・・あ!」
耆婆罔知生処。
耆婆、生ぜし処を知る罔(な)し。
ギーバは、このドクロのひとがどこに輪廻したかわからなかった。
輪廻したところがわからない―――輪廻していないんです。生死の世界から脱け出ることができたひともいるんだ! それを知ってギータ天は驚いたのです。みんみんみーん。
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「五燈会元」巻一より。
ほかにもいろいろお話ししてあげたいことは多いのですが、みなさんノウハウものでないことはあんまり聞きたくなさそうだし、「セミなんかに教わったらカッコ悪い」みたいなのでおいらの話なんか聞かないからなあ。それに、おいらはそろそろもう・・・腹が・・・減って・・・・・・
さて、どのドクロのところに行くのかなあ・・・三つ目だとい・・・い・・・・・・・・・みん・・・・・・・・・・・・・みん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・―――――――