平成29年1月22日(日)  目次へ  前回に戻る

地球の海にさえいろんな不思議があるものである。まして天上世界にはどんな不思議があるか知れない。

本日は学生時代の先輩がたと新年会。適当にしぼられる。この三十年以上の間のいろいろな経験に遮られているとはいえ、若いころのまぶしい思い出を思い出して、楽しかった。

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むかし、浙の晋安の地に謝端という書生が住んでおりましたのじゃ。

この書生がぼんやりと

於海岸観涛、得一大螺、大如一石米斛。

海岸において涛を観るに、一大螺の大いさ一石の米斛の如きを得たり。

一斗が6リットルぐらいのころだと思いますので、一石は60リットルぐらいになる。

海岸で波を見ていたとき、ふとでかい巻貝を見つけた。その大きさ、ゆうにコメ一石を容れるに足るほどである。

「でかいなあ」

割之、中有美女。

これを割くに、中に美女有り。

これを割ってみたところ、中から美しい女性が出てきたのであった。

「おほほ」

「うひゃあ、おまえさんはどこから来たのかね」

女曰く、

予天漢中白水素女。天帝矜卿純正、令為君作婦。

予(われ)は天漢中の白水素女なり。天帝、卿の純正なるを矜(よ)みし、君がために婦と作(な)らしむ。

「わらわは天の川に住む「はくすいそじょ」というものです。天帝さまが、あなたの純粋で正直なのをよしとして、わらわをあなたのヨメになるよう、お遣わしになられたのです」

「はあ」

世の中そんなにうまい話があるはずないし、

「いい加減にしろ!」

端以爲妖、呵責遣之。

端、以て妖と為し、呵責してこれを遣る。

謝端は、おそらく妖怪だろうと思い、怒鳴りつけて追い返した。

「ふう、困ったもんだね」

女嘆息升雲而去。

女、嘆息して雲に升りて去りぬ。

女はためいきをつくと、雲にひょいと乗って、行ってしまった。

どこへ? 空のかなたへ―――。

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梁・任オ「述異記」巻上。これは謝端の対応が正しいんです。絶対何かのワナか、あるいはほんとに天女さまでも性格的に合わない可能性の方が高い。というかこの三十年の経験からみて、こんなことはありえないのである。若いころだったら「あり得るかも知れない(あったらいいのに)」と思ったかも知れませんが。

なお、

「貝から女のひとが出てきまちたー! びっくり仰天でちゅう!!!!」

というのは、巻貝から出てきた女をヨメにしてシアワセになる「田螺女房説話」、異国の女人を乗せた舟が海岸を漂流しているという「うつろ舟伝説」、あるいは泰西の「ビーナス誕生説話」にもつながるような人類の古い記憶に基づく事件なのかも知れませんが、とにかく追い返してしまったので、その後の展開が無いのである。

 

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