にらまれるとチリやホコリにされるかも。
今日はそこそこツラかったが、まだ木曜日だ。明日があるのだ。なんとかして逃げ出したいものだ。
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雷蓬頭(「ぼさぼさ頭の雷さん」)というのはどこの生まれのひとかはしらぬが、太雲という名前で、わかいころは儒学を学ぶ書生であったという。やがて道教の術を学び、しばらく仏法に入門し、またそれを棄てて仙人の道を学んだそうである。
明の成化年間(1465〜87)、湖北・太和山に暮らしていたが、
弊衣蓬首、行若飄雲。
弊衣蓬首にして、行くこと飄として雲のごとし。
破れた服を着て、ぼさぼさ頭、ひょうひょうと雲のように歩いているのであった。
人或於山下見之、或失所在、挙頭望之、遥在高崖雲霧中。
人あるいは山下にこれを見るに、あるいは所在を失い、頭を挙げてこれを望めば遥かに高崖・雲霧中に在り。
山の麓を彼を見かけたひとが、しばらく目を離しているうちにその姿が見えなくなり、ふと頭を挙げて遠くを見ると、遥かな高い崖の上や、雲や霧の上に彼の姿を見ることがしょっちゅうあった。
ウワサを聴いて、この地方を支配する荊王さまが面会を求めた。
面会すると、王曰く、
側聞神仙之名久矣。願乞片言。
神仙の名を側聞すること久しきかな。願わくば片言を乞う。
「神仙である、とあなたの名前をずいぶん前からお聞きしておりました。せっかくお会いできたのですから、何かありがたいコトバを一言おっしゃってはくれませんか」
「はあ?」
太雲曰く、
予丐人也、何足以語仙。
予は丐人(がいじん)なり、何ぞ以て仙を語るに足らんや。
「わしはコジキですぞ。どうして神仙の話ができましょうか」
王は言った、
爾年幾何矣。
なんじの年、いくばくぞ。
「あなたはいったい何歳になられるのかな?」
答う、
雲半歳。
雲半歳なり。
「雲歳の半分ですな」
雲歳とは何歳なのであろうか。
「むむ・・・。それではあなたはどこのお生まれなのかな」
「幽州(北京付近)で生まれ、建康(南京)で育ち、広東で名簿に入れられ、遼東で兵役を果たし終わりましたな」
「むむ・・・」
王、憤然として曰く、
今日幸奉至人、願乞道術。
今日幸いに至人に奉じたり、願わくば道術を乞う。
「今日はせっかく最高のお方にお会いできたんですからな。ぜひ何か道教の術をお見せ願いたいもんですな」
「ぶう」
今度は太雲もむっとして、
吾非俳優、何術可施。
吾、俳優にあらず、何の術か施すべきや!
「わしは俳優ではないぞ! 術なんか「こうです、見てください」とやれると思っとるのか!」
「なんだと! おまえなどひねりつぶしてやる!」
と、
遂大相詆訾。
遂に大いに相詆訾す。
とうとうでかい声でケンカし始めた。
その場は大臣がなんとか治めたが、
王不勝怒、密遣人執之、噀以狗血、遂裹以革、令厭之、桎梏置獄、欲殺之。
王は怒りに勝えず、ひそかに人をやってこれを執らえ、噀(ふ)くに狗血を以てし、遂に以て革につつみこれを厭わしめて、桎梏して獄に置き、これを殺さんとす。
王は怒りをがまんすることができず、ひそかに人を送って太雲を捕らえさせた。そして、イヌの血を浴びせかけ、ドウブツの革の中に包み込んで、道術を使えなくし(そうすると使えなくなる、と思っていたのでしょう)て、手かせ足かせをはめて獄の中に放置し、明日にでも殺そうとした。
・・・ところが、
夜半忽不見。
夜半たちまちにして見えず。
深夜になると、太雲は突然消えてしまい、どこにも見当たらなくなってしまったのである。
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明・李兼「異林」より。手かせ足かせから逃げ出しました。塵か埃になって消え去ってしまったのかも知れません。すばらしい。
さあ、ともどもに楽しく歌おう。
やがて私たちはちりになるのだ。 (ヘルマン・ヘッセ「秋」(高橋健二訳))