少子化しているというのに、なぜウ○トラマン兄弟や仮面ライ○ーは増えてくるのか。
とんぼのメガネは水色メガネだったり赤色メガネだったりですが、ハチの目玉というのはどういう目玉なのでしょうか。
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紀元前七世紀のことでございます。
楚の成王(在位前671〜前626)は若いころに、その息子の商臣を大子(太子のこと)に立てようとした。
そのことを令尹(宰相)の子上に諮ってみると、子上曰く、
君之歯未也。而又多愛、黜乃乱也。楚国之挙、恒在少者。
君の歯、未だしなり。而してまた多愛、黜(しり)ぞくればすなわち乱るるなり。楚国の挙は、つねに少者に在り。
「我が君よ、あなたのご年齢はまだ跡継ぎを定めねばならないほど高くはございません。それに、あなたは寵愛する女性が多うござる。今、商臣さまを跡継ぎに定めなさりますと、後々恐れ多くもお差し替え申さねばならなくなったときに、一波乱ございましょう。従来から我が楚の王に即位される方が、ご兄弟の中でも弟君が多いのでございますし」
と構造的な問題を指摘した上で、さらに言った。
且是人也、蜂目而豺声、忍人也。不可立也。
かつ、この人や、蜂目にして豺声、忍人なり。立つるべからざるなり。
「それに・・・、そのお方は、ハチのような目をし、声はヤマイヌのようでいらっしゃる。冷酷な方でございます。跡継ぎには相応しくございませぬ」
「忍人」は「ニンジャ」ではありません。「忍ぶ人」です。「忍ぶ」は「がまんする、キモチを抑える」という意味で使います。何を「がまん」し「抑える」のか。
逆に「不忍心」(忍びざるの心)という言い回しがあります。これは「他人への温かいキモチを抑えることができない、冷酷に徹することができない」心という意味です。「忍ぶ」人はその逆で、「他人への温かいキモチを抑えることができる、冷酷に徹することができる」人、という意味になるんですな。
宰相の子上にこのように諫められた成王さまでしたが、結局、商臣を大子に立てた。
ところが、年を取ると、その後生まれた王子・職の方が跡継ぎに相応しいように思えてきて、紀元前626年、大子・商臣を廃しようとした。
王のたくらみを大子・商臣は叔母(王の妹)の江羋(こうび)から聞き出し、師(相談役)の潘崇にどうしたものか相談した。
崇曰く、
能事諸乎。
よくこれに事(つか)うるか。
「あなたは弟君に臣下としてお仕えすることはできませんか」
大子曰く、
不能。
あたわず。
「それはムリだ」
能行乎。
よく行かんか。
「では、亡命なさりませんか」
不能。
あたわず。
「そんなことできない」
しばらく間を置いて、潘崇は訊ねた。
能行大事乎。
よく大事を行わんか。
「・・・では、大きなことを為すおつもりはありますかな?」
能。
よくす。
「・・・やれる」
そこで、この年、十月、大子・商臣は自分附きの兵士らを率いて王宮を包囲した。
包囲された王は、
請食熊蹯而死。
熊蹯(ゆうばん)を食らいて死なんことを請う。
「最期に、珍味である「クマの手のひら」を食って、死にたい」と願った。
しかし大子は、
弗聴。
聴(ゆる)さず。
願い出をしりぞけた。
王は観念して、丁未の日に縊れて死んだ。
こうして、大子・商臣が即位した。楚の穆王(在位前626〜前612)である。
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と、「春秋左氏伝」文公元年「楚世子弑其君」(楚の世子、その君を弑す)章に書いてあります。クマの手のひらぐらい食わせてやれば・・・と思いますが、貴重な食い物だからそうもいかんのでしょうね。
さて、「ヤマイヌの鳴き声のような声」はまだ想像できるような気がするのですが、「ハチの目のような目」というのはどういう目なのか。いわゆる「複眼」のことしか思い浮かばないが、そんなひと、仮面ライ○ー以外にいるのであろうか。
いるはずがあるまい・・・・・・と思っていたら、いたんです。「世説新語」識鑒第七にいう、
―――晋の潘陽仲が、まだ幼い王敦に会ったとき、言った。
君蜂目已露、但豺声未振耳。必能食人、亦当為人所食。
君、蜂目すでに露わにして、ただ豺声いまだ振るわざるのみ。必ずよく人を食らい、またまさに人の食らうところと為るべし。
「おまえさんは、もうハチの目になっているぞ。ヤマイヌの声の方もまだ出ていないだけだ(いずれ声変りしたらそうなるだろう)。将来、必ず他人を害するようなひととなるであろう。そして、最後は他人に害されるであろう」
うひゃあ、コドモにこんなヒドイこと言うなんて! 傷ついたらどうするんだ! 虐待よ! ヘイトじゃ!
と思うひともいるかも知れませんが、王敦は後に謀反を起こし、最後は誅殺されてしまいましたので、予言は当たりました。
ということで、「ハチの目」を複眼のことだと理解すると、仮面ライ○ー以外に複眼のひとが二人はいた・・・ということになるわけである。でも仮面ライ○ーの方はいったいいま何人いるんだっけ? そんなことより本当に問題なのは今も「忍人」たちが跋扈していることではないのか?