銭湯代を払ったあと、ジュース類を飲む資金がないと、夏場の生命力は尽きることがある。
「職場」に行ってきました。一日じいっとしていて何もしませんでしたが、やっぱり身心ともにジリジリと灼きつくような圧迫が。
特別な身心の強さがないと、ちょっともうムリな感じがひしひしと。
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五代のころ、ある商人が河南・開封に商談に来て、汴河に船を繫いでいた。
船べりに何か近づいてきたので、使用人に網を以て掬わせたところ、
獲一巨亀。
一巨亀を獲たり。
一匹の大きな亀を捕まえた。
「これは美味そうだなあ」
と何でも食う文化ですから、さっそく
於竈火中煨之。
竈の火中にこれを煨す。
船の厨房のカマドの埋め火の中に亀を入れて、いぶした。
その晩は商用で陸に上がっていたましたので、亀は翌朝までぶすぶすといぶされておりました。
明日取視皮殻已燋矣。払拭去灰置於食牀上。
明日取りて視るに、皮殻すでに燋げたり。払拭して灰を去りて食牀上に置く。
翌日取り出してみると、もう甲羅は真っ黒に焦げている。灰を拭い去って、テーブルの上に置いた。
主人と使用人が集まって来まして、「さあ、食おう」と調味料や各自の前に取り皿も用意した。
亀の甲羅の隙間から筯(ハシ)を突き刺し、これをこじ開けて肉を取り出そうとして、使用人頭がハシを「ぶちゅ」と突き刺したその瞬間―――!
伸頸動足、徐行牀上。其生如常。
頸を伸ばし、足を動かし、牀上を徐行す。その生くること常の如し。
亀は「ぶにゅ」と首を出しました。そして足も出して、テーブルの上を歩き出した。その活動は(いぶす前と)同じであった。
「あんだけ焙ったのに生きていたのかあ」
「がんばったんでしょうね」
「なんだかすごいなあ」
衆共異之、投於水中、遊泳而去。
衆ともにこれを異とし、水中に投ずるに、遊泳して去りぬ。
みんな不思議な感じがして、この亀を食べるのを止めて水中に放してやった。すると、亀はゆうゆうと泳ぎ去ったのであった。
突き刺したハシはどこかで抜いてやったのだと思います。
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五代・杜光庭「録異記」巻五より。
ああ、「淮南子」にいう、大いなる原始の世に、
介潭生先龍、先龍生玄亀、玄亀生霊亀、霊亀生庶亀。凡介者生於庶亀。
介潭は先龍を生じ、先龍は玄亀を生じ、玄亀は霊亀を生じ、霊亀は庶亀を生ず。およそ介ある者、庶亀より生ずるなり。
「水中にひそむ甲羅あるもの」の中から「初期の恐竜」が現れ、「初期の恐竜」の中から「巨大な黒い亀」が現れ、「巨大な黒い亀」の中から「精神を持つ亀」が現れ、「精神を持つ亀」の中から「量産型亀」が現れて、現代の甲羅ある生物はこの「量産型亀」から派生したものなのである。
と。
亀は、獣の中における麒麟、鳥の中における鳳凰、人間の中における聖人、鱗あるものの中における龍のように、甲羅あるものたちの「長」なのだ。
だからたいへん強靭な生命力と精神力を持っているのです。なんという立派な生物であろうか。わしにもこの亀のような強さがあれば、職場でもやっていけるのカモ・・・しかしわしは何百年も隠者として生きてきているとはいえ、対人関係には弱く、亀のような生命力は無いのじゃ。あと一二日が限界か・・・。