←重い体を棄てて、どこか遠い遠いところへ行ってしまいたい。
やっと火曜日。昨年秋からどんどん体重が増えている。この年でこれで生きていけるのか、と驚くほどの体重に。
・・・・・・・・・・・・・・・
―――目の前の友人がこんなことを言いだしたらどうしたらいいのでしょうか。
盗只是欺人。
盗はただこれ人を欺くなり。
盗人というのは、ふつう、他人を欺いてその所有物を掠め取るだけである。
―――そうだね。
しかし真剣に考えてみると、
此心有一毫欺人、一事欺人、一語欺人、人雖不知、即未発覚之盗也。
此の心に一毫人を欺き、一事も人を欺き、一語も人を欺くこと有らば、人は知らずといえども、即ちいまだ発覚せざるの盗なり。
この心に、ほんの毛ほどであっても人を欺くとか、ただの一事であっても人を欺くとか、ただの一言であっても人を欺くといったキモチがあったなら、たとえ相手のひとがそのことに気づいていなくても、まだ発覚していない盗人というべきなのである。
―――いや、そんなに真剣に考えなくても・・・。
黙って聴いてくれ。
言如是而行欺之、是行者言之盗也。心如是而口欺之、是口者心之盗也。
言はかくのごときも行いこれを欺かば、これ行いは言の盗なり。心はかくのごときも口をこれを欺かば、これ口は心の盗なり。
コトバではこうだああだと言っていても、行動がそれを欺いてコトバどおりでないのなら、行動がコトバの盗人になる。キモチはこうだああだと思っていても、コトバがそれを欺いてキモチと違うのであれば、コトバがキモチの盗人になるのだ。
―――同じ人間の中で、コトバとキモチと行動が盗人になりあうなんてそんな・・・。
黙って聴け、と言ってるだろう!
纔発一箇真実心、驟発一箇偽妄心、是心者心之盗也。
わずかに一箇の真実心を発し、にわかに一箇の偽妄心を発するは、これ心、心の盗なり。
いま、まことのココロで何かを考えた、というのに、もうすぐにいつわりのココロで別のことを考えてしまう・・・、そんなことだと、ココロがココロの盗人ということになるわけだ。
可笑しいと思わないか? 可笑しいなら笑うしかなかろう。ひっひっひ。
―――おいおい・・・。
ひっひっひ。ひっひっひっひっひ・・・、つまり、一人のココロの中でも欺きあっているわけだよ、きみぃ!
諺云、瞞心昧己。
諺に云う、心を瞞(だま)し己を昧(くら)ます、と。
だから、「心を騙す。自分を誤魔化す」という言葉があるわけだ。
ひっひっひっひっひ、
有味哉其言之矣。欺世盗名、其過大。瞞心昧己、其過深。
味わいあるかな、そのこれを言うや。世を欺いて名を盗むは、それ過ち大いなり。心を瞞し己を昧すは、それ過ち深し。
なんと味わいのあるコトバなのだろう、このコトバは。世間を欺いて名声を盗んでいるのは、大きな過ちだ。心をだまし、自分を誤魔化すのは、深い深い過ちだよ。
ああ、もうイヤだーーーー! ニンゲンいやだよおーーー!
―――むむむ。(酔っ払っているわけでもなさそうだ・・・)
頭を抱えて悩む彼を前に、わしにはコトバもなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「呻吟語」第八則。
わたし個人といたしましても、昨年から、身心ともに疲れてるのに体重増えるはずない、と思って自分自身を欺いてきたのだが、体重計がウソをつかないのだとすると、その過ちや深いかな。