われも間もなく遠く旅立つであろう。
明日はまた平日。しかし老いた身でいつまでも社会の世話になるわけにはいかぬ。そろそろ別れの時が近づいている・・・。
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北宋の宋祁が、友人の劉原父と別れるに当たって作った「浪淘沙」詞。いまの我が思いにも近いので、これを引く。
少年不管、流光如箭。 少年管せず、流光は箭の如し。
因循不覚韶光換。 因循に覚えず、韶光の換わるを。
若いころは自分には関係ないと思っていたが、時の流れるのは矢のように速いのだ。
はっきりとはわからなかったが、あるときから麗しい光がなんだか翳りだしていたようだ。
至如今、始惜、 如今に至りて、始めて惜しむ。
月満、花満、酒満。 月の満つるを、花の満つるを、酒の満つるを。
今日になって、やっとどんなに大事なものだったのか理解した―――
すべてを得たと思っていた日の、望月の光、満開の花、さかづきなみなみと注がれた酒。
そうですか。
扁舟欲解垂楊岸、尚同歓宴。扁舟は垂楊の岸に解かんとして、なお歓宴を同じうす。
日斜歌闋将分散。 日は斜めにして歌は闋(や)み、まさに分散せん。
しだれ柳の岸辺から、小さな舟のもやいを解いて出発しようとしながらも、今のいままで別れの宴を続けていた。
けれど、日は傾き、歌はもう終わりだ。さあ、君と別れよう。
別方向に船出するのである。
君の手を振るすがたが小さくなっていく。
倚蘭橈望、 蘭の橈(かじ)に倚(よ)りて望む、
水遠、天遠、人遠。 水の遠きを、天の遠きを、人の遠きを。
木蘭の楫に身を寄りかからせながら、眺めている―――
君の船を載せていった川の流れが遠ざかっていく、君の行くかなたの空が遠ざかっていく、君が遠ざかっていく。
宋祁さまはこれで有名になったそうなのでございます。
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職業人としてはそろそろ見切りをつけることにしましたので、では、みなさん、ごきげんよう。あちらで楽しく暮らします。さばら。
われは睡りたれどもわが心は醒めゐたり。(旧約「雅歌」五)