平成28年5月29日(日)  目次へ  前回に戻る

われも間もなく遠く旅立つであろう。

明日はまた平日。しかし老いた身でいつまでも社会の世話になるわけにはいかぬ。そろそろ別れの時が近づいている・・・。

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北宋の宋祁が、友人の劉原父と別れるに当たって作った「浪淘沙」詞。いまの我が思いにも近いので、これを引く。

少年不管、流光如箭。  少年管せず、流光は箭の如し。

因循不覚韶光換。    因循に覚えず、韶光の換わるを。

 若いころは自分には関係ないと思っていたが、時の流れるのは矢のように速いのだ。

 はっきりとはわからなかったが、あるときから麗しい光がなんだか翳りだしていたようだ。

至如今、始惜、     如今に至りて、始めて惜しむ。

月満、花満、酒満。   月の満つるを、花の満つるを、酒の満つるを。

今日になって、やっとどんなに大事なものだったのか理解した―――

すべてを得たと思っていた日の、望月の光、満開の花、さかづきなみなみと注がれた酒。

そうですか。

扁舟欲解垂楊岸、尚同歓宴。扁舟は垂楊の岸に解かんとして、なお歓宴を同じうす。

日斜歌闋将分散。     日は斜めにして歌は闋(や)み、まさに分散せん。

 しだれ柳の岸辺から、小さな舟のもやいを解いて出発しようとしながらも、今のいままで別れの宴を続けていた。

 けれど、日は傾き、歌はもう終わりだ。さあ、君と別れよう。

別方向に船出するのである。

君の手を振るすがたが小さくなっていく。

倚蘭橈望、       蘭の橈(かじ)に倚(よ)りて望む、

水遠、天遠、人遠。   水の遠きを、天の遠きを、人の遠きを。

 木蘭の楫に身を寄りかからせながら、眺めている―――

 君の船を載せていった川の流れが遠ざかっていく、君の行くかなたの空が遠ざかっていく、君が遠ざかっていく。

宋祁さまはこれで有名になったそうなのでございます。

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職業人としてはそろそろ見切りをつけることにしましたので、では、みなさん、ごきげんよう。あちらで楽しく暮らします。さばら。

われは睡りたれどもわが心は醒めゐたり。(旧約「雅歌」五)

 

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